パーティから抜け出し、二人して部屋に戻った。
 軽~くアルコールなんて飲んだもんだから、なんかフワフワしていい気持ち。
 そのままぐるっと部屋を見回すと……、一気に醒めた。
 トルソーに着せられたウエディングドレス。
 はぁ……、着るって言っちゃったよなぁ~。
 彼が『僕に』と選んだドレスは、デザイン、素材、カッティング、それに縫製、それぞれ最高級のプロが手がけたものと分かる。
 繊細で豪華なレースは肌を覆い隠していたが、身体のラインははっきりと分かるもので、余計な飾りは一切なかった。
 『見たい、が、見せたくない』といったところか。
 まぁ、僕も『仮に着るんだったら、彼には見せても良いが、他の誰にも見られたくない』と思っていた。

「ねぇ、着るかどうかもわからないのに買ったの? 結構これ豪華じゃない、高かったろ?」
「そうですね、奮発しましたから。」
 ニコニコと答える。
 仕方なく、ドレス一式を手に取る。
 ドレスなんて着たことない。が、着方を知らないというわけでもない。
 「お手伝いしましょうか?」という彼を振り切り、用意された一式を持ってバスルームに籠った。
 ヒール、ストッキング、ガーターベルト、ペチコートにドレス。
 よかった、コルセットはないよ。って、何言ってるんだ!?
 とにかく一通り身に付けたが、さすがにヒールで歩くのは初めてだったので、うまく歩けなかった。
 えっと、裾はどう持てば良かったんだっけ……。

 ガチャッ。

「ヨザック?」
 部屋の明かりは一カ所を残して、全て落とされていた。
「大丈夫ですか、歩けますか?」
「大丈夫じゃないよ。手、貸して。それと、どうして明かりを消したんだい?」
「まあまあ、こちらへどうぞ。」
 彼は僕の手を取り、腰に腕を回し、明かりの付いている場所へと誘導した。
「いかがです?」
「……」
 普段は布のかかっている大鏡の前に燭台が集められ、その光の中に僕と彼が写っていた。
 言葉が出なかった。
 暗闇の中に浮かび上がる白い衣装の僕たち、幻想のように見えた。
 それにしてもこのドレス、あまりにもサイズがちょうど良くてちょっと……(訂正、胸はいくらか余ってる。)
 どこから取り出したのか、見事な細工のイヤリングを僕につけると、再びうっとりと鏡の中を見つめていた。
「まさか、このジュエリーも買ったの?」
「いいえ、ツェリ様からの借り物です。」
「僕につけるって言ったんじゃないよね?」
「ええ、俺が女装するときに使いたいって言っておきました。」
 それにしちゃ華奢すぎると思うけど。

「満足?」
「ええ、とても」
 声をひそめる必要はないのに、ついいつもの習慣で小声になってしまう。
「じゃ離して。パジャマに着替えるから。」
「……もう少し、このまま……」
 ため息まじりの言葉に、動けなくなった。

 僕の手を取り、手の甲に、ひらに、唇が触れる。
 一本一本の指先を、まるで飴を転がすようにゆっくりと舌先が嘗めていく。
 まるで自分が砂糖菓子になって嘗め溶かされるような気がする。
 いつもとは違うその仕草に、だんだん焦れてきた。

 強引に身体を返すと彼の唇を貪る。
 自由になった手は、彼のジャケットのホックを外していく。
 僕の反撃にほんの少しだけ遅れて、彼は僕の背に腕を回して後ろのボタンを外していく。 
 外気に触れてちょっと肌寒かったけど、そんなこと関係ない。
 ちょうど動きづらいなって思ってたんだ。
 背中が大きく開かれて肩先から袖が落ち、やっとレースから解放された指先は彼のパンツの前を緩めにかかっていた。
 キスの合間にクックッと楽しげに笑ういつもの音が聞こえ始め、ヨザックは自分の背中に腕を回しジャケットとシャツを脱ぎつつあった。
 ガシャンという音が聞こえた気がしたけど、なんの音かなんて分からない、知りたいとも思わない。
 ただただ、キスをかわしながらお互いを脱がせ合ってた。

 そう、やっと普段に戻ったって感じ。
 後はベットにもつれ込むだけ。
 お互いを愛撫し、確認し、求め合って、一つになる。

 いつもと違う朝から始まった一日は、しかし、いつもと変わらなく終わろうとしている。
 結婚したからといって何が変わるわけでもない。
 僕たちは僕たちでしかないんだから。

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