「キャー、可愛い!!」
「思った通り、似合うわぁ~」
「アタシ達より可愛いんじゃない?」
「さっ、みんなに見せに行きましょ!!」

「ヒューヒュー」
「ウォー!!」
「可っ愛い~!!」
「こっち向いてぇ~!!」
「今晩、お願いしたぁ~い!!」

野太い歓声に迎えられた俺としては、恥ずかしいやら、喜んでいいやら、むしろ怒った方がいいのか、迷っていた。
が、みんなのアイドル「グリ江ちゃん」としてはこう返すのが賢明だろう。度胸を決めると第一声。
「いやぁ~ん、うれしい~!! 今夜は楽しんでねぇ?」

軍の規定する体格になり、やっと入隊が許されたのは20歳のころ。
1年の新兵訓練の後、配属されたのは『ド』がつくほど田舎の国境警備隊。
踏みしめられただけの小道が幹線道路、橋すら不要な小川が国境ってのは、冗談かよっ? と思った。
隊のメンバーは眞魔国に住む人間か混血で、「魔族の視線の先にいるな」っていう、要は体のいい排除処置ってこと。
まぁそれでも、給金は出るし、休暇もあるし、住む場所も、三度三度提供される食事もまともなもので、敵との遭遇もなく兵士にあるまじき気楽さを満喫していた、5年近くも。

そんな俺がなぜ店の女達に着せられたドレス姿でクネクネしながら仲間と騒いでいるかというと……初めての王都に浮かれてたってことだろうな。
隊にいた奴が休暇で地元に帰るって言うんで、俺も一緒に行くことにからだ。
地元が王都って、どうよ!?
一度見てみたかったんだ、俺たちが守っている国の王都ってもんをさ。

初めての王都の感想は…「スゲェ!!」…のただ一言だった。
それまでに知っていたのは、シマロンの片田舎と収容所、ルッテンベルクに新兵訓練場、それにド田舎、王都ってもんがどんな所かなんて想像すらできなかった。
仲間たちとおのぼりさんよろしく王都をブラブラと観光し、あげく飲みに入った店で「こうなった」訳だ。
俺の見かけは20歳のまま、背も低い上に細かった。そう、順調にいくかと思われた成長が入隊以後、止まっていたのだ。

散々騒いだ挙げ句、そのままの格好で仲間の家に戻って寝てしまった俺は、翌日昨夜の服を返しに店へと出かけた。
「おや、昨日の美人さんじゃないの?」
「こんちは、服返しにきたんだけど。」
「ああ、わざわざどうも。お兄さんの服はこれね。ねぇ、本気でウチで働かない?、給金はずむよ?」
「アハッ、そりゃ嬉しいけどさ、取りあえず止めとく。」
「う~ん、惜しいなぁ。あっ、そうそう、手紙を預かってるよ。いや~、あんた本当に可愛かったもんねぇ。」
「ハァ? 野郎からの付け文なんていらね~よ。」
「かっこいい将校さんだったぜ。取っときなよ、なんかの役に立つかもしんねえからさっ。」

再びブラブラと散策してた俺は食事を取ろうと座りかけて、手紙に気づいた。
押し付けられた手紙は無造作に尻のポケットに突っ込んで忘れていたのだ。
受け取った時は気がつかなかったが、こうして明るいところでみると破った手帳の切れ端のくせに文字はいかにも教養がありそうな美しい書体で、はっきり言って『いやぁ~な予感』。
開けてみて「やっぱり」と思った。

=ヨザ、相変わらずだな。久々に一緒に飲もう、明日の夜ここに来てくれ コンラッド=

アイツもあそこにいたのか、きっと顔じゃにこやかに微笑みながら腹じゃ大笑いしていたんだろうな。
クソッ、行ってやろうじゃないか!!
住所だけじゃよく分からないけど、どうせどこかの店だろう。そのまま行ったってつまらねぇし、ちょっとからかってやるか。

王都の地理がよく分からず人に聞きながらたどり着いたのは、こじんまりしてはいるがそれなりに豪華な館だった。
(やべぇ、もしかしてここ、アイツの私邸?)と躊躇していたが、「おまえのようなものが来るところじゃない、とっとと失せろ」なんて門番に言われちゃ、誰だってカチンとくるさ。
だから、門番の想像した女のように「呼ばれて来たのよぉ」としなを作って手紙を見せるとスンナリ通してくれた。
(お前、普段からこんなことしてるのかぁ?)
館の中では従者にエスコートされ、一体いくつ角を曲がったのか、そろそろ出口が分からなくなったころ、立派なドアの前に立っていた。

「グリエ・ヨザック…嬢? …をお連れしました。」
(『嬢?』だと、ちゃんと自信持って『嬢』って言えよ!!)
「ああ、来たね。ご苦労様、下がっていいよ」
顔を出したのはやっぱりアイツだった。
出会ったころは俺の方が高かったのに、奴は順調に成長しているようで、頭半分俺より高くなっていた。
クソッ!!
「あらぁ、若様、お久しぶり~。呼んでくださってうれしいわぁ!!」
(どうだ、コンラッド。従者がドギマギしてるぜ、ザマァ~ミロ)
「さっ、お入り」
俺の言葉には動ぜず、上品なフリして手なんか差し出すもんだから、つい手を重ねちまったぜ。
だからドアが閉まった途端、手を振り払い、
「お前、何考えてるんだよ。お屋敷ならお屋敷って書けよ!! そしたらこんな格好してこなかったぜ。」
「よく似合ってるよ、ヨザ。それに住所で分かると思ったんだ。」
「バカ言え、俺は王都は初めてなんだ、分かるわけねぇ~だろ!!」
さも楽しげにクスクス笑うアイツを睨みつけている俺の耳に違う声が届いた。
「まぁ、あなたの言った通りドレス姿の似合うこと、それにしても本当に女の子じゃないのね!?
あぁ、でもその服の色は髪に合わないわ。そうねぇ~、やっぱり濃紺の方が似合うと思うわよ?」
(ハィ? )
振り返った先には俺たちよりちょっと上くらいの女性が座っていた。
呆然としていた俺の手を取るとアイツは彼女の前へとエスコートし、平然と言ってのけた。
「紹介します。『彼』がグリエ・ヨザックです、母上。」
「ヘッ?、母上って…エェ~!!!!」
そこに座っていたのは第26代魔王、ツェツィーリエ陛下。

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