「地球からこちらに還る日、僕が何も持っていこうとしないことに怒ったね。
君が思っているようなことじゃなかったんだよ。
荷物を選り分けてたとき、ふと思ったんだ。まるで遺族が遺品を整理してるか、知人が形見分けの品を選別してるみたいだって。
僕はもう一度君と一緒に生きるために旅立つのに、持っていかなきゃいけないものなんて何もないじゃないか。
それに、君は全部用意してくれていた。僕はこちらで何か足りないなんて思ったことはないよ。
僕がこの前こちらから去る時、僕の存在を示すものを消し去ろうとしたのは、僕の記憶に惑わされず君に新しい誰かを愛して欲しかったんだ。
まったく、若さって怖いよね。
確かに物があるということは思い出す誘因にはなるけど、なんにも無くたっていくらでも思い出すことはできる。これはけしてこの魂だからって言ってるんじゃない。長い時間をかけて僕自身が実感したこと。
だから、今回はそんなことはしない。なにもかも残していくから、君が『もうなくていい』って思うまで取っておいてくれて構わないよ。」
「それならどうしてあの写真を俺がもらうって言ったとき、あんなに怒ったんです。」
「えっ? ああっ……あれ。君……あの時、僕を見ていなかっただろ?」
「ちゃんと見てましたよ?」
「いや、違うね。君は僕を通して過去の……僕を……見てたよ。」
「そんなことは……」
「ヨザック、僕はあの時ほど後悔したことはなかった。どうしてここに残らなかったんだろう、なんで君と一緒に生きようとしなかったんだろうって。そうすれば、君があの頃の僕のイメージを持ち続けることなんてなかっただろうに。」
なんて……告白だろう。
「帰らないのかい? まったく君は剛毅なようで、実は臆病なんだから。」
(臆病だからここまで生きてこれたんだ。自分を偽り、周囲を観察し、退路を確保し、ひっそりと行動することで……)
「ほら、帰ろう。」
差し出された手を取り、夕陽の中に歩み出しながら、(俺はいつも彼の後を追いかけているな)と思った。
追いかけて、追いかけて、やっと隣に並んでも、またいつの間にか距離が空いてしまう。
もどかしくて仕方なかった。
だが今は、ずっと一緒に居ることはできないにしろ、彼が留まり、俺と同じ速度で歩んでくれる。
横目で覗き込んたムラタァの横顔からは、もし今、彼の魂が見られるとしたらきっと真ん丸に光輝いているんじゃないだろうかと思わせるほどの、開放感に満ちあふれた表情が見て取れた。

彼が逝くまで、光を失わず、歪めさせないようにすること。
それが、彼を愛し、連れ帰った、俺の責務。

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