(ああっ、怠いな)
本来の世界に戻り、渋谷家で賑やかな夕食をとって自宅に向かう道すがら、眞魔国とはあまりに違う夜の町並みに疲れを感じていた。
それにしても、好奇、畏怖、邪推、そんな視線の四六時中いることがこんなに疲れるとは思わなかった。よく渋谷は平気でいられるな。……いや、彼は何も隠さなければいけないものがないから、どこでも『渋谷』のままでいられるんだ。それが僕との……違い。
ドアを開けるといつものように目の前には空っぽの空間。何もする気になれずノロノロとパジャマに着替え早々にベッドに潜り込んだ。
冷たかった布団が次第に体温で温まるとやっとホッとできた。ここは自分の部屋、自分の家、自分の街、自分の国、自分の……世界。そして、ヨザックは……いない。
初めて眞魔国に行って僕は、ヨザックと再会して有頂天になった。
国の現状はどうなっていて、渋谷の周囲のものたちはどんな人たちなのか、僕の存在がどんな影響をもたらすか、本来なら真っ先に考えなきゃいけないことをほっておいて、視線はただヨザックだけを追っていた。自分でもおかしなくらい、間違いなく fall in love 状態だ。
感情に溺れてる暇も余裕もないのは分かっているし、ヨザックが僕をどう思ってるかすら知らない。嫌ってはいないだろうけど、それに渋谷に対するものとも違うだろう……たぶん。
では、僕が抱くような感情を、僕に抱いているだろうか。そうだったらうれしい、……だろうか。
ヨザックに触れたい? キスしたい? その先まで?……分からない。
渋谷がヨザックのその筋肉を褒めながら触れるのを見ると、どうして僕はあんな風に触れられないのかと残念に……いや、違う。僕は渋谷に軽く嫉妬し、止めようとしない彼に腹を立てていた。
ああ、そうだ。僕は彼に触れたい、知人や友人としてじゃなく、彼を愛でたいんだ。
まったく、ピッチピチのギャルだって、ちょっと年上のお姉さんだって好きだ。美子さんなら射程距離ギリギリに入ってるはずなのに、どうして!?
答えは簡単。
精悍な男が見せる、あの柔らかく暖かいまなざしの先にいるととても安心できるんだ。
『ありのままのあなたとして、ここにいていいんですよ』そんな風に云ってる気がする。
それにあの時、赤ん坊のように抱かれながらゆらゆらと揺すられて、思わずその首に腕を回してしがみつきたかった。そうすれば見たくない夢は見なくても済むような、気負いもなくただ心安らかに眠れそうって感じ。
もちろん彼は敏腕御庭番だから、自分の感情を隠して相手に取り入ることなんて朝飯前。僕を騙すなんてちょろいはずだ。でも、彼の僕に対する態度を見るとそうは思えない。ああ、これは惚れた欲目ってやつだ、きっと。
一緒にいる間に彼が置かれている立場は理解したつもりだった。でも、実際にこんな会話を耳にしてしまったら……
「まったく、あのガキのお気に入りだからって、なんで混血が城の中を大手を振って歩いてるんだ」
「シッ!! 誰かに聞かれる」
「それがどうした。大体、俺は信じちゃいないぜ、大賢者様だって!? 笑わせるぜ。どうせその内本性出して、城から放り出されるさっ」
「そりゃまあ俺もそう思うが。でも、あいつは閣下がたにも評判は良いようだし、第一、アルノルド帰りだぞ。斬り合ったら勝ち目なんかこれっぽっちもない」
「フン!!」
きっと渋谷なら(お前らなぁ!!)と乗り込んで行くだろう。でも僕は、渋谷じゃない。
……抑えなきゃ。少なくとも、眞魔国での僕の立場を確立するまでは。今のままじゃ彼を更なる非難の嵐に放り出すようなもんだから。
でも、僕は知りたい。ヨザックがどう思っているのか。

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