Practice 4:

毎日が通常に戻ると深夜の密会は必然的になくなり──相変わらず少尉は二人きりになる機会を作ってくれてはいるが、その時間はめっきり減った。
風呂上がりの良い匂いがする猊下をグルーミングするのは楽しい。ふざけたように一回では終わらない接吻は心躍る。人目を忍んで絡め合う指先はなんというか……欲望をかき立てられる。
猊下も接吻後、俺の唇から指先を喉元へと滑らせたり、抱き締めると自慢の胸板に頬を押し付けたり腰や尻をまさぐったり、秘めた肌を求めているのは明らか。
となると問題は、まぁ、なんだな、そういう……無防備な状態になっても大丈夫な場所と時間ってのが見つからないということだ。

模擬戦の正式な報告書が陛下に提出されたのは二日後。
地図を使って説明を聞かれた陛下は「こうやって聞いてるとゲームっぽいけど、実際に人が戦ったんだよな」と複雑な表情。臣民には怪我も被害もなかったと聞くと「よかった!! やっぱさっ、民間人に迷惑かけちゃいけないよな」と明るくおっしゃっていた後に負傷兵の数を聞かれると途端に渋い顔になった。
「ギュンター、まさか死亡とかないんだろうな」
「ほとんどが打撲、脱臼、骨折。長くても三月もあれば元通りです」
ホッとした顔は被害額を聞かれると困惑へと変わった。
「あの……その額にピンとこないんですが……」
きわめて庶民的な陛下の金銭感覚で何と比較したら分かるかその場の皆が考え込んだ中、「ほら、西武の石井選手の年棒×3くらいだよ」と猊下が助け船を出した。
陛下は「ああって、ええっ、結構な金額じゃん!?」と理解されたようだが、俺たちは逆に「なんでしょう、せい・ぶとは?」「い・しいって?」「ねんぼうとはどんな武器だろう?」と囁き合った。が、とにかく陛下が理解されたのであればまあ良しとしよう。
「予算は組んでたんだよね、フォンクライスト卿」
「えっ、ええ、予算内です」
「そうだ、兵士の皆さんを見舞った方がいいかな。城を守ってくれたんだから」
「あっ、それいいね」
「陛下、そのようなことはご不要かと。これは兵として当たり前のことですし、今までも魔王陛下が見舞いなど……」
「前例がないからってのは理由にならないだろ。手配、よろしくな!!」
さて、こうなると大変なのは裏方だ。
全員か?(まっ、そりゃ無理だな)
貴族や上級士官だけではだめだろうか?(おいおい、大した重傷者もいないくせに)
王立病院だけでは?(もちろんここはお貴族様専用)
軍病院も含めるか?(こちらはペーペー専用)
警備隊・国軍・ビーレフェルトにシュピッツベーグ地方軍も?(所属は関係ないじゃないか、同じ眞魔国臣民だろ)
などなど。陛下の優しさに右往左往する閣下がたを眺めるのはなかなか楽しい。
横を向きながら口元を隠し、後ろにいる俺にだけ聞こえる声で「君、ニヤニヤしてるよ」
「でも、猊下……」猊下の耳にそっと囁く。
「分かるよ、僕もふき出しそうだ」
(ああっ、この耳にキスしたい)

結局、閣下がたは『区別なく、重傷者だけ』ということに決めた。調べてみると、重傷者の人数が一番少なかったというのが真実ではあるが。
というわけで翌日、陛下と猊下は午前中王立病院を、午後は軍病院を訪れている。
「ギーゼラさん、癒しの術者、足りてる? 俺もなんちゃってホイミ、使おうか」
「まぁ、陛下、ありがとうございます。でも、薬も医者も充分に足りてますから」
恐怖の鬼軍曹殿は白衣の天使状態を一切崩さず、病室を案内していく。事前に予告されていたせいか、重傷者といっても実にきちんとした格好と態度で、かけられたお言葉にまだうっすらと赤インキのバツが残る奴らは感涙また感涙。ホイミなんて使わなくてもその姿と言葉で確実に回復が早まるに違いない。
久々に来てみると軍病院の雰囲気が前と違っているように感じたが、よくよく考えれば俺がいたときは本当の戦争時。ほとんど勝ち目のない、どちらを向いても『死』しか存在しない、ましてや魔王陛下のご訪問なんてあり得ない、そんな時代。
何もかも、……過ぎ去った過去だ。
「どうかした?」
遅れ気味な俺に猊下が声をかけた。
「いえねっ、……ああん、アタシも白衣、着てくれば良かったぁ〜」
「はいはい、そこで身もだえしない。君の白衣姿なんて見たらみなさんの回復が遅れるよ」
「ひっどぉ〜い!!」
先程から俺たちを見ていた陛下は眉を下げ、まさに「ああっ、またか」って顔をしている。
「なに、渋谷、その顔。こんなのと一緒にしないでくれる? さっ、次、行ってみよう」
陛下の背を押しながら次の病室に消えるお二人を見つつ(まったく、良い時代になったもんだ)と実感していた。

これ好き
ハートをあげる!! 3
Loading...