・7・

夜明けとともに出発した食料調達部隊は午前中に荷を積み終え、あとは王佐閣下だけだったが、迎えの部隊は日が真上に昇っても戻ってこなかった。
「退院できないほど弱ってるのかな」
「そんなことはないと思うぞ」
「魔力が強くて人間の国でダウンなんて、昔はなかったけどなぁ」
「そうなのか?」
「もっとも、その当時はまだ『魔族』って確立してなかったけどね。フォンビーレフェル卿、一体いつ頃からそうなの?」
「さあ……僕たちは滅多に人間の国には行かないからな」
「とにかく、船長は早く出航したがってるけど、ギュンターは置いて行けないからなぁ」
物見の声が「王佐殿、ご帰還!!」を告げ、船員たちが慌ただしく出航準備に動き回り始めた。

乗船した王佐は敬愛する魔王陛下に再会するといつも以上の感涙にむせび、双黒の猊下を紹介されると再入院が必要と思われるほどの興奮を示した。
「渋谷、この人、大丈夫?」
「あ〜、いつもよりちょっと激しいけど、大体こんな感じなんだ」
「ちょっと身の危険を感じるんだけど」
「気をつけるのは汁くらいだと思うよ」
再び物見が告げた「接近する船あり。……赤い彗星号です!!」
乗船したグレタ姫と魔王陛下との再会は見ているものたちに感動を、事実上の摂政、フォンヴォルテール卿の存在は『規律』をもたらした。
臣下として魔王陛下に挨拶する彼に魔王陛下は──いつものように──たどたどしく返答すると、一同は食堂へと場を移して聖砂国での出来事と見つかった箱の処分を談義の最中、その知らせが届いた。

早朝に響いた錨を下ろす音。
鎖が立てるガラガラという音、ガシャンと金属がぶつかり合う音。
その音は……石が転がり来る音、重い石の板が降りてきて堰を閉める音、石と石がぶつかり合い音に似ていた。

止めろ!! 止めろ!! 止めろ!!
アレを繰り返すのは嫌だ!!
思い出したくない!!
落ち着けよ、錨を下ろす音じゃないか。
死にたくない!! 死にたくないんだ!!
死ななかったろ?
俺は操られたくない!! あんなことしたくない!!
でも、したただろ?
うるさい!! 黙れ!! あれは俺の意思じゃない!!
なかったことになんかできないぞ。わかってるだろ?
分かってるさっ、そんなこと!!
のうのうとこのまま国に帰るのか?
今の俺に……こんな状況の俺に何ができる?
どう贖うんだ、陛下に、猊下に、最愛の二人に?
……死を、俺の死を以て。
それで贖えるのか?
ほかに何ができる? 俺にはそれしかない。
そうか……そうだな。
そうだよ。

周囲を見回したヨザックは目的を果たすためのものが見当たらないことに苦笑した。

俺をここに収監したものは心得てるな。なんにもないじゃないか。

そんな彼は開いた窓に目をとめた。昼間の明るい日差しは既になく、遠くに街の灯が揺れている。力の入らない足で壁を伝って立ち上がると、その窓の板戸に拳を叩き付けた。
跪き、乾いた木材の砕ける音とともに床に落ちた木片の中からささくれて尖ったものを選ぶと、その先端を自らの胸に当ててそのまま上体を床に落とした。

これであの声に操られることもない。
こんなことしかできないけど……本当にすいません、許してください、陛下、猊下。
ごめんなさい……ムラタァ

ヨザックは遠のく意識の中で誰かが必死に自分の名が呼ぶのを聞いた。
目覚めてから今まで呼んでもらえなかった『ヨザック』という呼びかけに、満足げにうっすら笑みを浮かべ……

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