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続いて飛び込んできた鳩たちは自分の仕事を済ませ、もらった餌をついばむのに夢中で人間たちが騒ぎ立てる声など耳に届いていない。
「なんで一度に2通も届くんだ!? 送り元は……ダルコ!? なぜそんなところに。また何かして捕らえられたんだな」
「とにかく、グウェンダルの手紙によればもう向こうを出航しているし、寄港するたびに送ってきているのでしょう」
「迎えの船は──」
「ダメですよ、ヴォルフラム。こちらの手紙だとまだシマロン属国内です。仮に眞魔国同盟国であっても、いきなり沿岸に軍船などくれば警戒するでしょうし、三人の身分が知れてしまいます」
「それなら母上の船に乗れば良かったのだ」
「どうやらツェリ様が乗船されている船の持ち主には知られたくないものを持っているようですね」
「海に飛び込んだときには服以外何も身につけていなかったぞ。悠長にみやげでも買ったのか?」
「まさか。なになに……古式織りの布に鏡を縫い込んだ貴重な民族衣装を手に入れた。船旅中、水に濡れぬよう特別な箱を用意したが、いささか大きすぎていまだ底が見える有様……んっ? ヴォルフラム、これは──」
「『箱』だな」
「おそらくそうでしょう。それにしても、陛下の行く先、行く先で見つかるなどとは、まるで何かの仕業のようではありませんか。あなた、聖砂国で見つかった方は陛下のご希望通り海に捨てたのですよね?」
ため息をつきながら尋ねるギャンターにヴォルフラムはいつにない厳しい表情を見せながら「あっ、当たり前だ!!」と言い切った。『バリバリ仕事』モードであれば違和感を覚えただろうが、陛下と猊下の所在が分かり、つい双黒の二人を夢想していたギュンターに分かろうはずもない。

「以前からの望み通り『もにたあ』にしてあげましょう。グリエ、さっ、寝なさい!!」
「あっ、えっ、俺……魔力ないですよ?」
「ええ、魔力のないあなたを『もにたあ』にするなど私としては特例中の特例。何か不満があるのですか!? とにかく、これをお飲みなさい」
逆らってはいけませんと小さく首を振る少尉を見て、ヨザックは諦めてグラスを干すとベッドに潜り込んだ。
「あのぉ〜、そんなにじっくり観察されてると寝ようったって寝られ……る……も……スゥ〜」
「寝ましたね」
「はい。今ここで実験されるのですか? 陛下がたがお戻りになってからの方が良いのではないでしょうか」
「もちろん本番はそうです。今はまず、あの場面を確実に夢見るための調査だけです」
そう言うと、ぐっすり寝入っているヨザックの髪をかきあげて小さな装置を両のこめかみ、頭の頂点と両脇に貼付けた。
「これから向こうの部屋で設定を変えていきますから、グリエが悪夢を見始めたら声をかけなさい」
「悪夢かどうか、どうやって知るのですか」
少尉の質問に歩きかけたアニシナは足を止め、振り返ると無言で少尉を見つめている。
「失礼いたしました。どうぞ、お戻りください」
吹き出た汗を軽く拭き、枕元に陣取った少尉はヨザックの様子を観察し始めた。

しばらくはなんの変化も現れなかった。が、半刻過ぎたあたりで寝息が荒くなり、何事かに抗うような寝言を言うようになった。
「アニシナ様!!」
実験室に飛び込んできた少尉の目の前で「なるほど。この位置ですね」と冷静にダイヤルに印をつけ、何事かをノートに書き付けている。
「装置を止めてください!!」
実験の停止を命じられることなど幼い頃に数度あっただけのアニシナには聞き入れがたいものではあったが、「実験は成功したのです!!」と云われてやっとスイッチを切った。
落ち着いた足取りで続き部屋に踏み込んだアニシナはヨザックの装置を外している。
「覚醒させないのですか」
「無理矢理起こす方が良くありません。ほおっておけば自然に目を覚まします。それより、どんな具合でしたか」
「……聞いているこちらが辛くなるようなものでした」
「今からそんなでどうするのです。あなたにはすべてを観るという任務があるのですよ、これだから男というものは……」
だが、最後の言葉は実験室の扉が閉められて少尉には聞き取れなかった。もっとも、さんざん聞かされた台詞なので少尉だけでなく、アニシナの周囲にいる男性なら聞かなくても分かっていた。

「私がお運びしましょうか」
「いえ、これも私の仕事ですから」
ヨザックの食事に毒の混入を恐れた少尉は皆に配膳される鍋からよそってもらい、自らが食堂から運んでいた。ヨザックが帰城した初日、氷を取りに行った少尉はかつての──猊下を排除しようとしたのと同じ──あの突き刺さるような視線を感じたからだ。そしても日を追うごとにこの別棟を取り巻く監視の目は増えてきている。そしてまた、少尉からヨザックのことを聞き出そうとする輩も近づいてきていた。
「大変ですなぁ、パルヴィアイネン殿。純血貴族なのに混血の世話などと、おや、今日は固形物ですな。どうやら順調に回復していると見える」
「ええ。さすがアルノルド帰り、傷ついても剣を手放すことなどありませんよ」
「でも、歩けないのでは剣も振れぬのではありませんかな」
「いいえ、そのようなことはまったく。あのように陛下とこの国を大切に思っている方のお世話ができるのは光栄です。あの、怪訝な顔をされていますが、私、なにかおかしなことを申し上げたでしょうか。ああ、食事が冷めてしまいますのでこれにて失礼いたします」
いざとなればいくらでも慇懃無礼に振る舞える少尉だったが、さすがにグレタのこの質問に即答することはできなかった。

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