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頭をいじられている感触に手を伸ばすと、「大丈夫、もう少し寝てなさい」とどこかで聞いたことのがある女の声。額に置かれたひんやりした手が気持ちいい。

……どこだっけ、……誰だっけ
寝るなんていやだ、悪夢ばっかりで……って、それ、俺が言った?
それとも……誰かがそう言ったんだっけ?
だとしたら、それは誰で、いつ聞いたんだろう……

翌日、目の包帯を替えていると意識を取り戻したらしいヨザックが言葉にならない声とともに手を伸ばしてきた。
(皮膚はまだ赤みが残っていたが、あと二三日で消えるだろう)
額に手のひらを重ねて呼びかけると微かな応えが戻ってきて、ギーゼラはホッとした。
(今日はお二人に良い知らせをお聞かせできる)

思った通り、意識が戻ったことを伝えると陛下は大変お喜びになり、手荒に扱われた痕こそまだあるが猊下も普段通り──陛下曰く、軽キャラとやら──に戻られて一緒に喜ばれている。
「それじゃ、会いに行ってもいいよなっ」
「それは、もう少しお待ちになった方がよろしいかと」
「どうして?」
「あの、まだ陛下のお体は本調子ではありませんし──」
「もう大丈夫だよ。そうだ、そろそろ歯ごたえのあるもン食べさせてもらえないかな。なんかスープばっかでさぁ」
「あっ、僕も」
「何を言ってるんだ!! 絶食の後はスープから徐々に戻していくというのが当たり前だぞ」
「絶食っていったって俺は体鍛えてるからどおってことないし。村田は──」
「僕だってたった一日だぜ」
「お二人ともお待ちください。食事については私の役目ですから従っていただきます!!」
言葉こそ穏やかだが腕組みした全身から軍曹モードへ変わりつつある様子を見て、三人は口を閉ざした。
「では、お二人ともベッドにお戻りください」
ヴォルフに押しやられるように陛下はベッドに、猊下は席を立って扉に向かいつつ「ちょっといいかな」とギーゼラに声をかけた。

部屋に戻り、扉に鍵をかけるよう指示した猊下は真剣な顔で「君の考えは?」
「面会の件ですね」
「そう。ひっかかってるんだろ」
「昨日のお話では、猊下には威嚇だけ、陛下には剣を向けたのでしたね」
「実際には僕はもう逃げ出してその場にいなかったから。暗示の目的が双黒だったのか、渋谷個人だったのか……」
「意識が戻ったとは申し上げましたが『グリエ』に戻ったかは分かりません。つまりお二人が面会されることは──」
「危険……か。ねぇ、僕が会って試してみるっていうのは?」
「お戯れを」
「じゃあ、眞魔国に同じような魔力を持ってる人っている? 別にゾンビ使いじゃなくてもいいんだ、強い暗示をかけられる人」
「あいにく、私は存じません。暗示には暗示、ですか」
「本当は君の父上のように所有者に開放してもらうのが一番なんだけど、イェルシーはあの調子だしサラレギーには力がない。とすると、暗示に暗示で打ち消せないかなって」
「それは難しいのではないでしょうか。義父の場合はウィンコットの毒という対処方法の分かっているものでしたから」
「そうなんだよね。仮にそんな人がいてもはたしてうまくいくかどうか、人の心は解らないことだらけだから時間をかけて手探りでいくしかない。ほんと、じれったいよ」
(じれったい? いくら仲が良いとはいえ、単なる部下に対してそんな言葉を使うだろうかしら。陛下なら使うかも知れない。でも、猊下が? 私が使うとしたら親しい人や家族、わが事のように思える人。猊下にとってグリエはそういう人なの?)
「さっ、ベッドにお入りください。国に着くまで2週間はありますから、はっきりすることも出てくるでしょう」
「あのさ、16歳男子の体力を過小評価してない?」
「いいえ、していませんとも」
(男はいくつなっても『力さえあれば』って考える子供なところがあるとは思っていますけど)

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