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入港する陛下一行を出迎えたのはギャンターではなく、少尉だった。
「お帰りなさいませ、陛下、猊下、閣下。長旅でお疲れとは存じますが、あちらの船にお乗りいただけますでしょうか。このままタウベ川を遡り、血盟城まで直行いたします」
「火急を要する事態になっているのだな」
「はい。どうぞお急ぎ願います」
一行を乗せた小型船は舫を解き、川へと舳先を進めた。
「船長はいるけど漕ぎ手はいないみたいだし……この船どうやって動いてるんだ?」
「少尉の魔力じゃないのかな。確か風の術者だったよね」
「はい、猊下。でも私の力など微々たるものです。この船にはもっと強い術者が数名乗り込んでおりますので一昼夜で城に到着できます」
「馬車だと休み休みで2〜3日だもんなぁ〜」
話が一段落ついたと判断したフォンヴォルテール卿の「そろそろ状況報告を頼む」に、それまでの表情を引き締めた少尉が答える。
「はい、閣下。グリエさんはアニシナ様の庇護の元、順調に回復しております。次に、十貴族の内、数家が極刑を求めてギュンター閣下に詰め寄り、閣下は『審問にかけるべき』とその要望を退けております」
「へぇ〜、彼は僕たちが居ない方が優秀なんだ」
「村田ぁ、そんなこと言うなよ。ギュンターはちょっと興奮しやすいだけなんだから。で、少尉。俺たち、船ん中でずっと相談してたんだ。グゥェンも同意してくれたし、なんちゃって魔王の権力を少し行使してもいいんじゃねってさ」
自信を秘めた言葉に少尉はにっこり微笑み、「なにをおっしゃるのです、陛下は立派な魔王陛下でございますよ。それで、どのようにされるのですか」
「うん、前のあの男の時は非公開だったけど、今回は公明正大、皆に見てもらう」
「公開……審問ですか。確かに、洩れ聞こえる情報が断片なので、特にグリエさんを知るものはどうしてよいか迷っており、また、以前より快く思っていないものは極刑をと。いまや城内は二分されつつあります」
「結局、うやむやにしておくと皆の中に疑いを残すことになる。それは……誰のためにもならないから」
一瞬、村田の唇は別の言葉を形作り、結局別の言葉を続けた後、「それに、フォンヴォルテール卿も可愛いお庭番を手放したくないって言ってるしさっ」
「猊下、私は──」
「隠さなくてもいいって。彼が君にとってただの兵士だったら、あんなことしなかったろ?」
陛下は声を上げて笑い、今回の船旅で猊下への対応方法を会得したらしい閣下は早々と白旗を上げた。だが、少尉は(こうやって猊下はいつも触れられたくない部分から話を逸らす。それがあまりに上手過ぎて……)と少し寂しく感じていた。

「食事を持ってきたよぉ」
「ありがとうごさいまぁ〜す」
現在の情勢から自分が城を離れることはできないと判断したギュンターは陛下一行の出迎えを少尉に任せた。そうなると検討しなければいけないのが『ヨザックの食事を誰に頼むか』だったが、「それなら任せてっ!!」と挙手したのはグレタだった。もちろん、正確にはグレタ付きの侍女たちが世話するのだが、少尉の心配に気づいていたのか「大丈夫だよ、一緒に食べるから」と付け加えた。
「今日はこっちで食べようよ」
ヨザックの寝室ではなく、奥の森が眺められるよう作られたアルコーブへと導いた。本来なかったテーブルが用意され、さまざまな料理が並べられている。
「あっ、これ大好きなんです」
「グレタも好きだから作ってもらったの」
給仕係が脇に下がると二人はおしゃべりをしながら仲よく食事を始めた。食事もほとんど終わり、あとはデザートという頃、それまでにこやかだったグレタはふと独り言のように「あのね、グリ江ちゃん。してしまったことを頭の中で何度も繰り返すのはよくないんだよ」
顔を上げ、驚いて手を留めたヨザックを見つめながら、「それで……無理やり忘れようとするはもっといけないんだって。本当にしなきゃいけないのは『自分が何をしたか』を自覚して、その上でどう生きるかなんだって」
(きっとグレタ姫も誰かにそう言われたんだろう)
「グリ江ちゃんは自分の考えでしたわけじゃないし……」
(それでも、俺がしたことには変わりない。こんな風に気遣うことができるなんて、そうか、もう『良い子』って頭を撫でるって年じゃないんだな)
「グリ江ちゃんが元気になってくれなきゃユーリだって猊下だって、グウェンだって困っちゃうよ。でしょ?」
「ありがとうございます。たくさん食べて元気になりますね」
「うん!!」

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