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円卓の間。それはある種の恐怖を思い起こさせる場所だ。
「ここかぁ〜」
滅多に使わない手──瞳ウルウル、可愛い孫作戦──で改善を懇願した魔王陛下は、果たしておじい……王佐が対応してくれたのか、不安な面持ちでいた。
布令係の重々しい「第27代魔王、渋谷有利陛下が御入室されます」で室内へと踏み出すと、立ち上がって頭を垂れる一同を目の当たりにして胃が重く感じ、次に以前は自分を取り巻くように配置されていた円卓の一部が切られて馬蹄形となり、その空いた部分にお誕生日席状態になっていることにホッとした。
「魔王陛下の無事のご帰還、臣下一同お喜び申し上げます」
フォンクライスト卿は儀典長として言葉を述べたが、フォンヴォルテール卿を除く他のものたちは魔王でもなく十貴族でもない村田の入室にざわめきが押さえられないようだ。
「みんな、ただいま。えっと、今日は村田も同席するから」
「陛下。失礼ながら猊下はどのようなお立場でご参加されるのでしょうか」
「僕は発言しない、傍聴するだけだよ。そのくらい問題ないだろ、フォンラドフォード卿」
「しかしながら、猊下。陛下のお隣に席が──」
「ああ、これ。んっ、重いなぁ。悪いんだけど、誰か手を貸してくれないかな。ああ、ありがとう。そこに置いて」
指示された場所──窓際の柱前──に衛士が席を移動し終わると「ほら、ここに大人しく座ってるからさっ」。その位置からだとフォンクライスト卿の背中越しに、フォンヴォルテール卿が『石頭』と称した領主たちがよく見える。

「陛下、それでは始めてよろしいでしょうか。それではまず──」
フォンクライスト卿が事の始まりから詳細を述べていく。小シマロン王によるほぼ誘拐状態での聖砂国行き、さらに聖砂国で何があり、なぜ帰国が遅れたか。その中に登場した大シマロンの使者の名前はぼかされていた。
その後、小シマロンと聖砂国に対して眞魔国としてどう対応するかの討議は、さすがに魔王が関わっているため以前の『他国には関わらない』を声だかに主張するはいない。が、『魔王が国外を訪れることをお止めいただく』という消極派、『断固、武力行使』という強硬派、『十分な抗議とともに動向監視の強化』という慎重派、各意見をまとめるとこのように分類された。
「俺の意見を言わせてもらえば、一つ、サラには直接抗議済み。二つ、動向監視は……した方がいいだろうなっ。三つ、外交については積極的に行う。待った、私語はやめて聞けよ、俺はまだしゃべってるんだぜ」
(いいぞ、渋谷。打ち合わせ通り、この場を支配するんだ)
「あんたら『外交』がどれほど重要かって分かってないだろ。外交ってのは……え〜と『戦争とは他の手段をもってする政治の継続である』って云うんだぜ。世界は広がってんだ、あっ、距離的な意味じゃないから。ともかく、いろんな国が存在してる以上、お互い知り合い、立場を尊重しつつ主張するためには積極的に外に出て行かなきゃダメなんだ」
「その結果、今回と同じようなことがあったらどうするのですか」
(うん、その質問はシミュレート済みだよ、フォンギレンホール卿)
「眞魔国同盟国で俺の誘拐がどう云われてるか知ってる? それに大シマロンでも。誰か知ってる? ギュンター、報告書を読み上げてよ」
始めに国名が、続いて読み上げられる各国からの報告にほとんどのものが動揺している。同盟国はともかく、大シマロンまでが小シマロンのやり方を──やんわりとだが──非難していたからだ。
「分かったろ。もう一国で世界征服なんてできないし、こういうやり方は通用しない時代になったんだ。まっ、俺ももっと注意するからさっ。じゃ、良いよな」
異議がないことを確認したフォンクライスト卿が「では、本日の──」と会議を終了しようとした瞬間、「お待ちを。まだ議題が残っておりますぞ!!」、フォンビーレフェルト卿が言葉を遮った。
(いよいよだ)、村田は緊張を覚えた。

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