外野手の構えで待ち、飛んでくるボールを捕球する。現実には外野手のグローブにボールは収まるのだが、それでも、確実に自分の手の中を通り過ぎると僕に向かってガッツポーズしてくる。
「なに笑ってるんだ?」、ベンチに戻って来た渋谷が聞いてきた。
「えっ? いやぁ〜、なんかみんな眩しいなって」
「そうだよな。みんな変わってなくてうれしいよ」
「おお〜い渋谷君。内野守備、始めるぞ」
「今行きま〜す」拭き終えたタオルを放ると駆け出して行き、代わりにヨザックが戻って来た。
「ムラタァ、見てくれました? 私のキャッチ&スロー」、なんてキラッキラな笑顔なんだ。
視線は内野に向けたまま「初めてにしては上手だったよ。チームに欲しいくらいだ」
「それじゃ、ほかもできるってとこも見てもらわなきゃ」そう云って、文字通り飛んで行く。

ピッチャーの脇に転がってくるゴロを一塁にスローイング。今度は走者になってピッチャーがボールを投げると二塁に盗塁、スルスルとリードを取って再び盗塁。そうしてホームスチールを決めると飛び上がって大喜び。天使って本当に無邪気な子どもなんだと思う反面、発達した脛につけられた脛当てのゴツさに彼の役目が言葉通りじゃないって印象を持った。
「私の役目ですか? クーリエ、伝令です。あちこちに散らばった仲間に上司の言葉や書状をもって行くんです」
彼の云った『仲間』を僕はなぜか『部隊』と解釈した。天使は悪魔相手に聖戦をした、あるいはする存在でもあるのだから。

練習が終わると次回の予定を確認してチームは解散、僕たちは亀の湯で汗を流して渋谷の家に直行した。一人暮らしの僕に食事をさせるのが自分の役目と美子さん──渋谷の母──は思っているらしい。
「ただいま」、「お邪魔します」に「お帰りなさい」
僕の家では聞かれない、懐かしい言葉とワンワン、キャンキャン、吠え立てる二匹の犬。歓迎というより、僕の後ろでキョロキョロしてるヨザックに向けてのようだ。当の彼は気にすることもなく「ムラタァの『家』とはいろいろ違うのですね」と感想を漏らす。
「しばらく来なかったから顔を忘れられたかな」
「まさかぁ。でも、今日はよく吠えるな。おい、お前たちうるさいぞ」
渋谷に怒られた犬たちは後ろを振り返りながら居間へと戻って行く。
「夕食が出来るまで俺の部屋に行こうぜ」
階段を上り、廊下までついて来たヨザックはドアを前に思案顔。『僕の部屋には入らないこと』、この約束が果たして渋谷の部屋にも該当するのか迷っているようだ。さりげなく手招きするとうれしそうにドアを通り抜けて来た。
「大学はどうだい?」
「ついてくのがやっとって感じかな。でも、楽しいよ。村田は?」
「うん、なんとかやってる」
「ウソ云え。一年の授業なんてお前には楽なもんだろ」
「そんなことないよ。まっ、前期の試験は楽勝だったけど」
「くぅ〜、云ってくれるぜ。俺なんかギリギリだってってぇのにさぁ」
しばらく離れていたとは思えない二人の会話を、床にあぐらをかいて座っているヨザックがニコニコしながら聞いていた。

人気のない帰り道、「渋谷さんは楽しい方ですね」
「だろ? 彼が親友なのはほんとラッキーだよ」
「ねっ、ムラタァ。私はあなたの部屋も見てみたいんですけど……、やっぱりダメですか?」
僕を見つめる彼の意図はなんだろう。
「今日、渋谷さんのお宅や部屋を見て、その人の性格や考えを表す場所だということが良く分かりました。ですから、私はあなたをもっと知りたいのです」
彼はウソや恣意的になにかを言うことはできない。だから常に本心を語るか、一切を語らないかだ。
「ん〜、それじゃあ僕と一緒のときだけなら……いいよ」

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