駅前から自宅に戻る道すがら、「ムラタァは結構いたずらっ子だったんですね。聞いちゃいました」とうれしそうだ。
「はぁ? 聞いたって誰から……」
ほろ酔いだった僕の頭はそれがどういう意味か、即座に判断できなかった。
「あなたに負けず劣らず面白い方ですね、おじいさんって。色々なお話を聞かせていただいて、最高に楽しかったです!!」
(おじいちゃんかぁ、良く一緒にいたずらしたな……って、ええぇ?!)
「いたの? 来てたの? あそこに?!」
「ええ。あちこち案内してもらいました」
(だから、蝋燭は揺れなかったのか。まったくあのジジイめ!!)
「今日は本当に良い体験ができました。ムラタァ、ハグしましょ」
「はいはい、ハグね」
僕たちはハグしながらお互いの背中をパンパンと叩き合っていると、「このスーツはサラッとして触ってると気持ちいいですね」
何気ない一言に「ああ、一応、麻だから。高級品なんだぜ」と云ってから何かおかしいと感じた。
「ねっ、ムラタァがドレスを着れば、あのフワフワに触れられるのでしょうか」
(彼は触覚を得始めている? まさか……)
「前にも云ったけど、僕はドレスは着ないの!!」
「残念だなぁ〜」
とはいっても、その顔つきは諦めたようには見えなかった。
なんでそう考えたのかは分からないけど、その日からヨザックはこれまでよりも、より女性的に──僕から見て──振る舞うようになった。

翌日、自室のドアを開けると、胸の前で両手を握りしめ、ちょっと顔をかしげるように「おはようございます」ニコッ。一緒に歩く時は歩幅を小さくして軽く小走り。何かと云えば「まあ、可愛い❤」
「あのさぁ、なに、それ」
「なにがです?」ニコッ。
「その『ニコッ』とか、まるでキャピキャピな女の子みたいな仕草とか言葉とか」
「私には性別はありませんからどう振る舞っても問題ありませんよね」
(く〜、正論だけに返答に困る)
「今までと違いすぎるだろ!!」
「ムラタァがいろいろと教えてくれたので実践してるんですぅ〜」
(僕に責任転嫁かよ!! そっちがそう態度なら……)
「よぉ〜し、君の主張は良く分かった。だったら僕はたった今から君を無視する!!」雄々しく宣言した。彼が折れるか、僕が参るか、これは一種の神経戦だ。

大学への道すがら、ヨザックはイケてるOLさんと腕を組み、ハンサムな会社員の頬にキスをし、講義中の教授にはおんぶおばけのように背に張り付いて翼を広げ……。
「おい、村田。俺、今変なこと云ったか?」
「えっ?」
「いやぁ〜、急にしかめっ面になったから……」
(ランチ食ってる君の後ろでヨザックが変顔したんだ)とは云えない。
「悩みごと?女だろ、云っちまえよ、聞くぜ」、昼飯そっちのけで聞く気満々。
ため息をついて「実は、非常識な奴に絡まれてるんだ」
ヨザックは「そんなこと、ありません!!」とアピールするが、クラスメートの顔とヨザックの顔が透けて重なってるなんてあまりにもシュールすぎる。
「ひぇ〜、そりゃあ羨ましい。で、どこで知り合ったわけよ」
「女とは云ってないんだけど?」
「でも、美人なんだろ?」
ヨザックはうんうんとうなづいている。
「ん〜、敢えて云うなら『オカマ』だな。筋肉モリモリで顔は美形」
「ええっ、男なのかよ?! そりゃあ厄介だな」
今度は首をブンブン横に振ってる。
「だろ?」
「でも、面白そっ。ラノベにしたら売れるかもよ。で、深夜アニメになったりして。詳しく教えろよ、俺が書いてやる」
(こいつってそういう趣味だったのか)
結果、一日持たずに勝敗は決まった。僕の負けだ。
僕にしか見えない、触れられない、聞こえないと分かっていても、何度「止めろ」が口から出そうになったことか。
「ムラタァにご理解いただけて、本当にうれしいです❤」
ハグのついでに頬にチュッ。もうどうにでもなれって感じ。

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