肉親でもないのに、ずっと一緒にいた存在が急にいなくなって感じる空虚さ。これこそまさに『失恋』状態なんだろう。
年末だというにのどこかに出かける気も起きず──イチャイチャなカップルなんて見たくもない、かといってヨザックのいない家にいたくもなく。
「おっ、いたな、村田。お前、大晦日、暇?」
「いきなりなんだよ。まあ……暇だけど」
「バイトしないか? 当てにしてた奴が風邪引きやがってさぁ」
「なにすんだよ。ヤバい仕事じゃないだろうな」
「売り子だよ、壁だから人数揃えないとマズいんだ」
「あー、話が見えないんだけど」
「大晦日、壁、売り子、……本当に知らねえの?」
「……コミケか。まさかお前が壁?」、知識としては知ってたが行ったことはなかった。
「あたりではずれ。壁なのは先輩で、俺は毎回手伝ってんだよ。それじゃ7時に入場口でなっ」
刺激的非日常で、今の僕には良いかもしれない。

内心(すげー)と思いながら3時間後の開場を並んで待つ野郎どもを横目に見つつ、入場口で待ち合わせてた斉藤と中に入った。案内された場所には既に先輩と云う人が段ボールで山を築きつつあった。準備も整い、持参したおにぎりを食べ終わり、開場1時間前あたりからサークル入場していた人たちがポツポツと来始めた。
開場後はすげーなんてもんじゃなく、まさに『壁ってのは、こういうことだ!!』状態。午後1時を過ぎてやっと「初めてだって? マンガ以外にもいろいろあるから、ぐるって見てきたらどうだ。あっ、でも……45分なっ」
疲労困憊だったけど、そう云われて「いいえ、疲れてるんで」とは云いづらい。「それじゃ、行ってきます」とその場を後にした。
向かいのホールに行ってみるともう帰ってしまっているブースや片付け始めているブースなど、あの忙しさは何だったのかという感じ。なんか渋谷のお兄さんぽい人もいたが、エロゲコーナーじゃないし、まあ別人だろう。
結局、本を買うこともなくブースに戻って片付け始め、終了を告げるアナウンスに拍手が起こってホールを出たのは4時くらい。打ち上げをして、帰宅したときは8時を過ぎていた。
留守電には恒例の初詣を誘う渋谷の声。風呂に入って、タイマーを11時にセットして仮眠しようとベッドに入ってふと気づいた。今日はヨザックのことを思い出さなかった。彼がいなくなってからこんなに思い出さなかったのは初めてだ。こうして僕はヨザックを忘れていくんだろうか。

渋谷と初詣を済ませ、渋谷の家で──ウチのと違って──全部手作りのおせちをごちそうになった。珍しく渋谷のブラコンなお兄さんも帰ってきてて、久しぶりに始まった渋谷との口喧嘩を聞くことになった。
「俺は今年二十歳、いつまでも中坊じゃないんだぜ」
「俺にとっちゃ、いつまで経っても弟なんでね」
可愛いが故ってのは分かるけど、鬱陶しいのも確かだ。
「おい、弟のお友達、そこでニヤついてるんじゃねえ!!」
「ここに来るようになってもう5年なんですけど、まだ僕の名前を覚えられないんですか、お兄さん♪」
「俺はお前の──」
「お兄さんじゃない。ええ、そうですね、勝利さん♪」
今度は渋谷がニヤニヤする番。こういう雰囲気って、やっぱり好きだ。

次の行事は成人式。行くか止めるか迷ったが、結局、渋谷が行くというのでついていった。くだらない賓客のスピーチや退屈な催しを渋谷と茶化しあって時間をつぶし、式後、両親に送るための写真を渋谷と二人、変顔で撮りまくった。思った通り両親が大いに受けてくれたのはいいが、会社のデスクに飾るのはやり過ぎだと思うんだ。
地元の高校に行かなかった僕は集まりに参加することもなく、街をブラブラしながら家に帰った。ヨザックがいたらもっと違った一日になったかもしれない。

3月の中旬になると母さんが帰国。目的は僕の様子見ではなく花見だって。わざわざ半月近くかけて九州から桜前線とともに北上し、4月に入って帰国した父さんと合流してやっと自宅に戻ってきた。母さん曰く「前々からやってみたかったの♪」だそうだ。
家の中を見回した両親は女っ気のなさからフられたと察したようで、彼女の話題は一切せず、その代わり、一人暮らしで急激に上達した僕の料理の腕を褒めそやした。それはそれでチクチク刺さるものがあるんですけど。
「ねえ、父さん。あの後、ボブから連絡あった?」
「ああ、久しぶりにお前と会って楽しかったって云ってたぞ」
「それだけ?」
「他になんかあるのか?」
「……んっ、奇人ぶりが増した感じだったから、なんか変なこと云ったんじゃないかと思ってさ」
「そう毛嫌いするなよ。ボブはああ見えて繊細かつ剛胆で面倒見の良い企業人なんだぞ」
そっか、ヨザックのことは云ってないんだ。というか、云えないよな。いつ、返してくれるんだろう。
一週間ほど滞在すると「次は紅葉の時期にね」──つまり南下するつもりなんだ──と二人して任地に戻っていった。

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