初夏、結婚披露パーティーの前日、母さんは俺たちを伴って墓地へと赴いた。王都からも近くて貴族や豪族でなきゃ買えないような一番歴史のある墓地に、母さんの前に結婚していたムラタァと、結局、遺体の見つからなかった父さんの形見が埋葬されている。
さすがに由緒あるだけあって生け垣はきれいに切り揃えられ、ゴミもなく掃き清められてる。それでも母さんは俺には読めない文字が刻まれた墓標を丁寧に拭き、持ってきた花を添えて満足そうだ。
「さて、これでよし。私はなかなか来れなくなるから、エッダさん、あとのことはお願いね」
「そういうのは息子である俺に云う台詞じゃない?」
「だって、あなた、しょっちゅう飛び回っててろくに家にもいないじゃない。ねえ、そうよね?」
同意を求める母さんの視線にエッダまでニッコリするなんて。
「だから田舎になんて引っ込まないで王都にいりゃあいいんだよ」
「ルッテンベルクは良い場所だと思うけどなぁ」、聞き慣れた声に振り向くと陛下がニコニコしていた。
「やあ、ソラ、結婚おめでとう。こんにちは、ハナさん。それと……エッダさんだね」
バツの悪い俺は会釈しただけ。でも母さんは「陛下、お久しぶりでございます。このたびは息子たちの結婚式に祝いの品をいただき、ありがとうございます」と動ぜず挨拶し、初めて会うエッダはビックリして声が出ないらしい。
道をあけた俺たちの間を進んだ陛下は持ってきた花束をムラタァと父さんの前に置くと、指を伸ばしたままの手のひらを合わせて──これは陛下独特の仕草で──しばらく黙祷した。

静かな一時が過ぎ、振り返った陛下は「お邪魔したね。ソラ、休暇を楽しむんだよ」と云い残して帰って行った。陛下の姿が見えなくなると緊張が解けたエッダは俺の袖を引きながら「ねえ、ソラ。お父様は陛下のお側近くに勤めていたって聞いてはいたけど、どうして陛下がいらっしゃるの? ねえ、どうして?」
「あなた、話してなかったの?」と母さんはあきれ顔。
「ただ、うまく説明できなかったから……」
父さんの話をすればムラタァの話も出てくる。母さんはどこまで知ってるんだろう、ムラタァが単なる臣民ではなくかつては陛下と並び立つ……。とにかく、俺はいまだにムラタァという人物を受け入れられていない。
そんな俺の戸惑いを感じ取った母さんはため息とともに「あのね、エッダ。ここに眠ってるムラタァさんは私の前にヨザックと結婚していた人で……陛下のお友達だったの。だから、時々お参りにくるのよ」
エッダはチラッと俺を見て、それから「そうだったんですか」とだけ云った。このあとさらに質問されるんだろうな。

*****

気に入ったら↓のハートをクリックしてね
1つ星 5
読み込み中...