子供のころ、俺はずっと父さんは商人だって思っていた。何しろ半年は人間の国々に行っていて、買い付けてきたさまざまな商品を扱う店『ピンタクルス』──店の看板には『ここになかったらどこにもないぜ』と書いてある──を経営していたからだ。
「それで、お前は将来、なにをするつもりだ?」
16才を迎える前、父さんは俺に尋ねた。ある意味これが初めての、大人の男同士の会話だ。
「俺は商人になりたい。父さんみたいにいろんなとこに行ってみたいし、駆け引きっていうのも面白そうだから」
「そうか。兵士って時代じゃないからな。ところで、まさかピンキリ──父さんは店の名前をいつもそう略していた──を継げると思っていないだろうな。あの店は俺のじゃないから無理だぞ。おまえは自分の才覚で店を持て」
「あー、別にそんなこと思ってないよ。でも……父さんって雇われオーナーなのか。あれだけの店を持っているなんてすごいと思ってたんだけどなぁ」
初めて知った事実──もっとも『ブラウニーレディ』での父さんを知った時のほうがもっと衝撃だったけど──にちょっと落胆した。
「そりゃあオーナ──」口ごもる父さんなんて初めてじゃないだろうか。
「誰なの? まさか、陛下……とか云わないよね」
何度か墓地で見た、陛下と父さんのやり取りを思い出して云った冗談のつもりだった。でも、父さんは髪をグシャグシャとかきながらため息とともに「まいったな」って。そんな言葉が返ってくるとは思わなかった。
「まあ、おまえも大人になるんだし」と言葉を選びながら、自分の素性──国軍兵士で、優秀なお庭番として活躍、今はお庭番たちを統括する立場で、人間の国に住む混血たちへの教育大使もしている──を話してくれた。ちゃんと話してくれたのはこのときだけ、二度と話してはくれなかった。

数日後、「仕事を覚えるなら一流のところで覚えなきゃな」そう云って連れて行かれたのはP&K商会。
「前から小遣い稼ぎさせてもらってるよ?」
「今度は正式に雇われるんだ。但し、学校を卒業してからな。今日はその挨拶」
今は経営から引退した大旦那様のオスカー・ラウリ・パルヴィアイネンと父さんは知り合いで、ときどきお屋敷に呼んでもらったこともある。
「ヨザックさん、いらっしゃい。今日はどんなご用です?」
現在の経営者で、息子のフリッツさんとも顔なじみ。就職の話をすると「ウチを選んでいただけるとは光栄だ。実はソラには前々から才能があると思っていたのですよ」と話はとんとん拍子に決まった。ついでに云えば、「商いというのは人脈と信頼関係が一番重要だからね、人脈を築くには一番良いんだよ」だって。今度は人間の国の学校かよ。

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