翌朝、キッチンにいた母さんに聞いてみると、
「そんなことで驚いたの? 私が初めて会った時はドレス姿だったわ。もう最高に素敵で、胸がドキドキしちゃった❤️」
起きてきた父さんは父さんで「嬉しいね。でもハナのスーツ姿も決まってたよ。あんなにかっこいい着こなしは男だってなかなかできないぜ」あの母にして、この父だ。
出発する俺を玄関先で見送る二人はベッタリとくっつき合い、いつまでもいつまでも手を振ってくれた。子供たちが家を出たんで、これからは二人でベタベタ・イチャイチャして暮らすんだろうなって思ってた。まさか両親の揃った姿を見るのはこれが最後だとは……

人間の国で『大学』に通い初めて感じたのは、国の年寄りに言われるほど『魔族』に対して嫌悪感を示す人間たちにほとんど出会わないことだ。自己紹介で「俺は魔族です」って云っても「へぇー、そうなんだ」で終わってしまう。どうしてだろうって疑問が積もる中、ある人が学食で声をかけてきた。
「お邪魔してもいいかな」
どうぞという間もなく向かいの席に座ったのは、長く名物教授として勤めて今は運営に携わっている人だった。
「君は魔族なんだって?」それはさりげない、でもよくある質問。
「ええ、そうです」
「もしかして、身内にマルヤーナという人はいるかね? ハナ・マルヤーナという人なんだが」
「あー、それなら母ですが……」
「そうか、やっぱり」(ひどく嬉しそうだ)
「私が10歳くらいだったから……もう60年ほど前か。実はハナ先生の授業を受けていたんだよ。そうか、目元は違うが顔立ちがなんとなく似てると思ってね」皺だらけの顔なのにその笑顔は若々しい。
「ハナ先生は元気にしているかね?」
「はい。今でも国で教師をしています」
「そうかぁ。先生は教えるのがうまかったので、国に帰って結婚するって聞いたときはショック……というか失恋でろくに食事もできなかったな」
「はぁ……(んっ、これってチャンス?)、あの、質問してもいいですか?」
「生徒の質問を断る教師なんていないよ。さあ、なんでも聞いてくれたまえ」(あっ、顔つきが好々爺から教師に変わった)

「ここではあんまり魔族を毛嫌いする人っていないみたいなんですけど、どうしてですか?」
「それは君たちの魔王陛下が長年かけて賢い施策を行っているからだよ。そうだなぁ、例えば、ここに来るまえ、不安だったりしなかったかね?」
「んー、一応、学校でこの国のことは学びましたけど、やっぱり不安はありました」
うんうんと頷いた教授は「その不安の根源は?」
「……知らないから……ってことかなぁ」
「魔族もそうだと思うが、人は知らないものに出会うとどうするか。まず名前を聞かないかね? 名前を知ると知らなかったものが知ったものになり、不安や恐怖がなくなるか薄れる。だから、魔王陛下は教師を派遣し、我々に魔族というのがどういう種族なのかを教えてきたのだよ。その結果、寿命と魔力以外は我々と同じだということが浸透し、偏見を持つものがかなり少なくなった。たぶん、君にいろいろと吹き込んだのは老人ではなかったかね?」
頷く俺に教授は続けた。「おそらくその人たちは200年前のあの戦争を覚えている人たちだろう。一方、魔王陛下の教師派遣が始まってから100 年くらいだから、人間はすでに3世代目だ。ハナ先生はよく言っていた『私を見て、人は魔族を知ることになるんだから、いつも自分は魔族の代表だと思っているの』ってね。この国に住む魔族も増えたし、我々の意識も変わったんだ。さあ、疑問は解けたかね。お邪魔したね、満腹だからって午後の授業を居眠りしてはダメだよ」

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