†3. ハナ -1-

「お客様を迎えに行くから、あとはお願いね」
高原の村ルッテンベルクもそろそろ夏。村に漂っていた朝霧は強い日差しですっかり消えている。今日は暑くなるだろう。

しばらく待っていると石畳に響く馬の蹄に車輪の音。続いて、たくましい6頭立ての駅馬車が到着した。
この時期はまだ村にやって来る客はほとんどおらず、馬車から降りたのは2人の女性だけ。
先に降りた侍女が手を差し伸べ、続いて老婦人が降りてきた。
「ようこそお越しくださいました。この日をお待ち申し上げておりました」
「久しいですね、ハナさん。元気そうでなによりです」
還俗したウルリーケ様は名を『レムケ・リーケ』と替え、眞魔国各地を旅行し、終の住み処としてこの村を選んだ。
「こちらはコジマ。身の回りの世話をお願いしているの」
コジマさんと二人で荷物を馬車に乗せ終えて、馬車にお乗りいただくよう、周囲をそぞろ歩いていたウルリーケ様に声をかけた。
「馬車に乗り続けだったでしょ。わたくし、歩きたいわ」
「でも、館は村外れなのでかなり──」
「ハナさん、私、馬車は操れますので、奥方様をご案内願います」とコジマさんが手を差し出した。
結局、たずなを渡して道を教え、ウルリーケ様と一緒に馬車を見送った。

「食堂に宿屋に、あれは土産物の店ですか? 思っていた以上に発展しているようですね」
「ええ。王都からの街道が整備されて旅人が増えまして。この広場、以前は土ぼこりが酷かったので石畳にして、小さいですが噴水と花壇を整備しました。でも、整えるのはこの辺りだけってみんなで決めたんです。この村は旅人のためのものではなく、私たち村のみんなの生活の場ですから」
「良い決定ですね。では、のんびり行きましょう」

初夏を迎えた村は一面の小麦で金色に輝いている。ウルリーケ様は眩しげに見渡すと「美しいですね」
「はい。ただ、この光景もあと1週間、そろそろ収穫時期ですから。ご覧ください、あちらの丘から上はここと近隣の村との共同放牧地になって、あのポツポツ見える白いのが羊たちです。こちらの丘の向こうから谷にかけての斜面はぶどう畑。毎年、新酒を陛下に献上しているんです」
「あら、それでは陛下からいただくぶどう酒はこの村のものだったのですね。豊かな風合いでおいしかったですよ」
「お飲みになられたのですか?」
「陛下が『俺はあんまり飲まないから『おすそ分け』』とおっしゃって。これからは残りを気にすることなくいただけますね」、ウルリーケ様はいたずらっ子のように微笑んだ。
   

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