刈り取りが始まって4日目。村人からは「いやー、貴族の奥方様っていうから何にもできないんじゃないかって心配したけど、人のあしらい方ときたら厳しいのなんの」、「あたしたちにも親しく口をきいてくださるなんて、あの奥方様、結構気さくな人なんだね」などという声が私に届くようになった。思った通り、うまく村に馴染んでくださっているようだ。
「お帰りなさいませ、奥方様」
「ただいま。あなたの云った通り、本当にドミニクは可愛らしいわね」
満面の笑みでおっしゃるなんて、どうやらウルリーケ様も抵抗できなかったらしい。
「お仕事のほうはいかがですか?」
「今日はわたくしが管理者で、ミアさんは補助に回っていただいたの。あともう一日試してみて問題なければ、明後日からわたくしだけでする予定ですよ。このお仕事、本当に良かったわ。おかげで皆さんの顔と名前が覚えられましたもの」
「張り切りすぎて疲れてしまわないよう、お気をつけくださいね」
「ええ、分かっているわ」

2週間で村中の刈り取りが終わった。この後は来年用の種籾を残して、乾燥したものから順に製粉する。そして、この村で消費する分を村人たちに分配し、残りは陛下の代理人──昔はヨザックが代行していた──がやってきて、問屋への売却と納税をチェックする。
「今年は豊作だから、小麦の売却分で税金の2/3は支払えるのですって?」
「この分だとそうなります。後はぶどう酒の販売で1/3。陛下が税率を抑えてくださっているので、この村は豊かでいられます」
「十貴族の領地ではもともと産物に乏しい土地もあるから、同じようにはいかないのでしょうね」
「その分、港や橋や道路の整備、学校の建設や教師の養成など眞魔国全体に影響するものは陛下が惜しみなく資金を提供されていらっしゃいます」
「諸国を回ってみて本当にそう思ったわ。陛下は早く退位したいとおっしゃるけど、わたくしは長くその座にいていただきたいの。だって、次の魔王が陛下と同じように施政するとは限らないでしょ?」
「陛下が選ばれた方なら大丈夫なのではありませんか?」
「それが……これは内緒よ。実は、陛下には決定権はないの。推薦された人々の最終選考は十貴族が行い、眞王陛下の承認を言賜巫女が……。ねっ、わたくし、魔王選出方法について還俗する前に陛下と検討し忘れてしまって。やっぱり歳ね」
国の最重要秘密事項をあっけらかんと私に教えてくれるなんて……。
「グリエがあなたを伴侶として選んだということは、あなたは『云えること』『云えないこと』そして『云わないこと』について理解していると思って間違いないわね?」
そう云って、ウルリーケ様は唖然としている私を試すように微笑みかけた。同じ言葉をヨザックからプロポーズの言葉とともに聞いた。
でも秘密はあるもの、当時、私はそう考えていた。間違ってはいないが、それぞれの比重は思っていたものとは違っていた。なにしろ、彼の仕事はほんの一面しか知らなかったし、今も彼のすべてを知っているとは思っていない。それでも、私はヨザックを愛している。
   

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