話を聞いたインゲも悪乗りして、結局、緑がかった金色のエンパイアドレスを着させられた。
「やっぱりこのドレス、ヘーゼルの瞳によく合うわ。あなたどうして髪を伸ばさなかったの? このドレスなら髪はアップなのに」
「ヴェルマ、今更仕方ないわよ。そうね、サイドからネックにかけてカールでボリュームを出しましょう。ハナは首が細いからきっと似合うわ。あっ、ネックレスはダメよ、せっかくの鎖骨が隠れてしまうから」
「そうね。それが良いわ。コテを暖めてくるわね」、姉とその連れ合いはし放題に言い放題。
「うーん、ハナ、すてきよ。ボリュームは詰め物でごまかせるけど、コルセットで締めたって、このスレンダーさは絶対無理!!」
でも、おかげで完璧なドレスアップというものを久々に体験した。

迎えに来たグリエさんは出てきた私を見て、一瞬、息を飲み「なんてすてきなんだ。こんな美人をエスコートできるなんて、今日は最高の日ですよ。そうでしょ、お姉さん方」と云った。
最後のセリフは姉たちへのごますりなのは明白。でも、ドレスを着る彼なら、どれだけ苦労したかは十分に理解しているはずだ。
「ありがとう、グリエさん。それじゃ、ハナ、たっぷり、楽しんでらっしゃい」
馬車に乗って王都までの2時間は、いつものように彼の話であっという間に過ぎてしまった。

歴史ある王立劇場に集う人々は貴族に豪商。着飾ったその姿も『普段着よ』って感じ。自分の中に反骨心が湧き上がってくるのを覚えた。ひがみ、やっかみなのは分かってるけど。
「ほら、あの人を見てごらんよ。さっきからやたらとゴージャスなネックレスに触れてるだろ? あれはきっと借り物。それに、あそこの男性の服はちょっとデザインが古いし、体形に合ってない。若い頃に作ったんだろうな。ああ、かわいそうに。階段を上がってるあの人は、はき慣れないヒールで危なっかしいな。ねっ、誰もがこういう場所に馴染んでるわけじゃなんだよ」
グリエさんの解説に(私、そんなに分かりやすかったかしら)とちょっと反省。
「俺が優秀って忘れた? なかでも、人を観察するのは大得意なんだ。君は優秀で生徒に慕われる教師。だから、教壇に立っているつもりでいればいい」
「……そうね。ありがとう」

案内された2階のボックス席には談笑している男性二人と一人の女性が先に座っていた。
「やあ、グリエさん、久しぶりですね。ほう、こんな美しい方をエスコートされているとは羨ましい」
「まあ、こちらがお話くださったハナさんね。初めまして、わたくしはゾーヤ・パルヴィアイネン。こちらは夫のオスカーと息子のフリッツ。グリエさんとは家族同然のおつきあいなのよ。さっ、前の席にどうぞ」
「そんな、奥様、私……」
「気にしないで。せっかく良い席を取っても、殿方はいつも途中で飽きてしまって最後まで一緒に見てくれないの。ねぇ、あなた」
話を振られたオスカー様は苦笑しながら「まあ、本当のことだから。遠慮せずどうぞお座りください」

上演されてる劇も面白かったが、それよりパルヴィアイネン家の方々とグリエさんとのやり取りに耳を奪われていた。
「フリッツ、お前はそういうけどね──」
「父上、これは母上のほうが正しいですよ。ねっ、グリエさん」
「その通りですよ、少尉。だいたい、ご婦人のドレスデザインを批評するなんて恐ろしいこと、俺だってしませんよ」
(少尉?)よほど私が変な顔をしていたのだろう。
「うちの家名って長いでしょ。それで……陛下が夫を尉官名でお呼びになってからの習慣なの。グリエさん、わたくし、あなたの意見はとても的確なのでいつも参考にしているのですよ」
「んー、ゾーヤ、私の意見はそんなに的外れだったのか?」
「そうね、少なくとも20年前だったら、参考にしたかも」

「少尉? その呼び名に聞き覚えがあるような……」
「ヨザックと一緒にあの方のお側に務めていた方です」
「ああっ、それならたぶんあの人ね」
「会われた方、全員を覚えていらっしゃるんですか?」
「まさか。奥まで入ることのできた男性なんてほんの少しでしょ。それに、あの方は人を見る目がお有りでしたから」、ウルリーケ様は私が持っている小さな瓶に、懐かしそうな視線を向けた。
「素晴らしい方々とご一緒できて、それまでの人生で最高の夜であり、……打ちのめされた夜でもありました」
「あなたがそんなことを云うなんて、何があったの?」

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