†3. ハナ -3-

「あっ!! 明かりがつきました」
慌ただしい動きとともに「いよいよだ。ヨーゼフ、あんたは湯を沸かして!! 子供たちは出てお行き!!」、産婆の声が夜に響く。
胸元に隠していた小瓶を取り出して「よろしいですか?」、ウルリーケ様は頷き、私はゆっくりと瓶の蓋を開けた。
しばらく底に留まっていた光の珠は、伸びをするようにふわっと瓶の口から浮かび上がり、寝ぼけた子どもが歩くようにゆらゆらと漂って行く。
「あんな調子で間に合うのでしょうか」
「さあ、どうでしょう。わたくしたちには見守ることしかできないのだから、あなたが焦っても仕方ありませんよ」
頭では分かっていても、気が急いてならない。
光の球が見えなくなってから半刻ほどして、元気な産声とヨーゼフの歓喜の声が聞こえてきた。「やった!! 女の子、女の子だ!!」
「なんという喜びようだこと」
でも、ウルリーケ様も浮き立つ喜びを隠せないようだ。私も、まるで自分の孫が生まれたような興奮を感じていた。

どのように館に戻ってきたのか覚えていない。気がつくと、ウルリーケ様と食堂に座り、お茶を飲んでいた。ポケットから手帳とメガネを取り出し、昨夜から今日にかけての記録を書いていると、「あら、それ」
「あの一家に決めてからずっと記録しているんです。ご報告差し上げようと思って」
「違うわ、そのメガネ」
「ああ、これ。ヨザックが取っておいたんです。メガネは高価ですから、使わせてもらっています」
「それだけ、時が過ぎたのですね。……さて、それであの子の名前はもう決まっているのでしょ?」
「二人は子どもができたと分かった時から『ルル』って呼んでました。『望まれた、大切な子』だからって」
「カナリアの鳴き声のように美しい名前ね」
「本当にそうですね」
こうなって欲しい、ああなったら良いと、私たちは楽しくルルの将来を語り合ったが、杞憂していることは言葉にしなかった。

翌年の冬、ソラとエッダに男の子が生まれた。
「それで、名前は何にしたの?」
「あー、エッダとも相談したんだけど……『リヒト』にしようと思うんだ」
それを聞いた時、思わず涙が出てきた。『リヒト』は私たちが初めての子に用意した名前。ヨザックが望んだ家族、グリエ家の『光』。
「ソラ(空)とエッダ(北の神話)から生まれたリヒト(光)なんて、出来すぎだわ」
泣き笑いしながらそう云うと、
「始めにつけようとしたのは父さんじゃないか。それにベネラなんて『美の女神』だぜ? あいつは完全に名前負けだな」と照れ臭そうにソラが答えた。
エッダはエッダで「ねえ、あなた、次の子にも空と神話に由来する名前も考えるんなら眞魔国の辞書だけじゃ足りないわ。人間の国のも買ってきてちょうだいね」
ヨザックがいたら手を叩いて喜ぶようなことを云うなんて、素晴らしい人を伴侶に選んだソラを褒めてやりたい。でも、口に出しては云わない。だって、この子ったらヨザックに似て、ちょっと褒めると図に乗るんだから。
「エッダ、それはすてきだわ。ソラ、忘れずに買ってくるのよ」
もっとも、成長速度が子どもによって異なる私たちは人間と違ってそれなりの年数を置いたほうが子育てには楽だというのも確かだけど。

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