二月ほど息子たちのところで過ごした私は雪深い村に戻ってきた。
館に戻って暖炉で体を暖めていると、毛布とひざ掛けに包まれたウルリーケ様が「あちらはもう暖かいの?」
「ここと比べれば程度です。でも、川べりのプリムラはあと少しで咲き出すでしょう」
「それで、生まれたのは?」
「男の子でリヒトと名付けました。予定日より少し遅れましたけど、初産はとかくそういうものだし。そうそう、先月お披露目したら、いらした皆さんが口々に云うんですよ、『この子はヨザックみたいに大きくなるぞ』って。それを聞いたソラがむくれてしまって。ヨザックは魔族の中でも背が高いほうなのに、父親の背丈を超えられなかったのが気になっていたみたいなんです。ソラもそんなに小さいほうではないんですけど。ほんと、息子って変なところで父親と張り合いたいみたいでおかしくって。でも、リヒトは確かに生まれた時の体重も手足もソラのときより大きいんです。髪は赤っぽい金色なので、大きくなったらたぶんオレンジになるんじゃないかしら。でも、瞳の色は夜が明ける前の青みがかった紫、こちらは大きくなっても同じにはならないでしょうね。
そうだわ、へい……ミツエモン様が剣の形をした魔石のペンダントヘッドをくださったんです。それが『青空に一筋の雲』といった感じで、とても美しいんですよ。カードには『マモリガタナは本来『魔を払うもの』なんだけど、まあ、子どもが無事に育つようにね』って。私たちにまでお気遣いくださるなんて……あらっ、私ったらペラペラと」
ウルリーケ様はクスクスと笑いながら「初孫ですものね……コホン、コホン」
「奥方様、まだ咳が止まらないのですか? 薬はお飲みになっていますよね?」
私が王都に行く前からウルリーケ様は咳をされていた。健康そうだが高齢──それもかなりの──なので、ほんのちょっと体調を悪くすると長引いてしまう。
「忘れようがないわ。コジマが毎回きっちり側について飲むのを見張っているのよ」
「奥方様がごまかそうとされるからですわ。はい、夕方のお薬です」
ウルリーケ様はコジマさんが差し出した粉薬をイヤそうに口に含み、グッと白湯で流し込んだ。
「おおっ、なんと苦いこと。もっとマシな薬を持ってきてちょうだい」
コジマさんは受け取ったグラスを盆に乗せ、「それでは今度は小麦粉に混ぜてクッキーにでもしましょう。それで効能が変わらないと先生がおっしゃれば……ですが。まだしばらくハナさんとこちらでお話になっていらっしゃいますか? そうなさるのでしたら、夕食はこちらにご用意いたしますけれど」
「そうしてちょうだい」

雪の合間から土が見え始めると、みんなは今季の種まきに備えて働き出す。いよいよ春だ。
「今日、市場でミアさんに、また食堂を手伝ってくれるようお願いしたんです。そうしたら、子守してくれてたドミニクがこの春から学校に行くのでルルを連れてきてもよいか聞かれました」
「もちろん、かまわないと云ったのでしょ?」
「はい。これで奥方様も近くであの子を見ることができますね」
すっかり足の弱くなったウルリーケ様は、お一人では前庭や中庭を歩くのがやっと。村の中心にある市場まではほとんど行かれず、あの子の姿を見る機会がなくなっていた。
「3才」
「はいっ?」
「人間の3才はずいぶん成長しているのでしょうね」
「可愛い盛りですよ。それに女の子はよくしゃべるし、走り回るし、おしゃれにも興味津々」
「早く見たいものだわ」

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