窓が割れ、勢い良く海水がなだれ込んでくる。重いドアを蹴破って出ると通路の半分あたりまで浸水し、閉じこめられた人々が激しくドアを叩いていた。通路に設置されていた非常用斧で叩かれていたドアを壊し、ついてくるよう指示しながら船尾に向かった。水は冷たく、激しく、容赦なく人々の足を浚っていく。
船尾甲板に出るドアはすでになく、通路はほぼ水没し、船外に出るには潜るしかなかった。
「そこのあんたっ、子供たちは自分の体に縛りつけろ!! それから、あんたっ、荷物なんか捨てろ!! 外に出たら船以外のなんかに捕まれ。船に捕まってたら沈没するとき一緒に引きずり込まれからなっ!! よしっ、潜るぞっ!!」
どれだけの人がついてくるかはもう、俺の責任じゃない。

容赦ない波が俺を沈めようとしてくるが、必死に見回すと積み荷があちこちに浮いている。一番近い荷箱にたどり着いて振り返ると、波間に数人の頭が見えた。
「おおーい、こっちだ。こっちへ来い!!」
だが聞こえていないのか、彼らはその場でもがいているばかり。
(くそっ!! 泳げないのか)
「子供っ!! 子供たちをっ……助けてくれっ!!」
荷箱を手放して泳いでいくと、両肩に二人の子供を乗せた父親が沈みかけていた。
怖がる二人をやっとのことで背中に乗せ、安心したように笑顔を見せて静かに波間に消えていく父親を見送った。
「おい、ガキども!! どっかに荷箱が浮いてるはずだ!! どこにあるか教えろ!!」
何度か繰り返すと「左……左に浮いてる!!」

二人の指示で見つけた箱は俺が最初に捕まっていたのよりずいぶん小さく、二人が上に這いつくばると俺の入る余地はなくなった。
(冷たい水で泳ぐと急速に体力が奪われる。早く他の箱かなにかを見つけないと)
見回している俺の様子に気付いたのか、「おじさん、お願い、行かないでっ!!」、大きいほうのガキが俺の腕を掴んできた。その泣きじゃくった声が……まるでソラが言っているように聞こえた。
「……分かった、ここにいるからなっ。その代わり、俺が寝そうになったら必ず起こせよ。いいなっ!!」

嵐の勢いは一向に弱らず、ガキは何度か起こしてくれたが、疲れ切って体も凍えて……もう捉まっていられない。
自分で手を離したのか、波にさらわれたのか……。
海は、死は、ついに俺を引きずり込むことに成功したようだ。

そうして、グリエ・ヨザックが薄れる意識で思わず発した言葉は、誰の耳にも届かなかった。

「まる……で……スタ……ツ……ァ」

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