ベッドを降りて一物の始末をし、自分の服を拾っていると「まだだよ」と掠れた声が聞こえた。振り返るとぐったりと疲れきった、でも妙に優しい顔が俺を見ている。
いたたまれない気持ちで再び服を身につけ始めると「治療は済んでないって言ってるんだ」
手首から先だけで軽くベッドを叩き、俺に座ることを要求している。
それ以上、身動きすらできなさそうな相手など無視してもよかったが、(こんな無力な奴を前に逃げるのか。そんな卑怯者だったのか、お前は)自問自答の末、彼に背を向けて浅く腰掛ける。

外で鳴く鳥の声が聞こえる。
「君は……」
丸めた背を摩る手のひらの暖かさ。
「自分が思うほど冷たい人間不信者じゃないよ。むしろ……優しすぎるくらいだ」
「どんな根拠があってそんなこと言えるんだ」
「僕はわざと君の怒りを煽ったんだ。セックスはその人の秘めた暴力性を表しやすいからね。その結果、確かに手荒に扱われたけど、最後まで手は上げなかった」
体を起こしたのか、寄りかかられたヘッドボードがかすかに軋む。
「君は人を愛することができるのに、君が望むようには愛されてこなかった。そのことが君の秘めたる悩みであり、消せない欲求ともなっている。分かってるんだろ」
孤児が生き延びるには他人を出し抜き、他人の何倍も必死になるしかない。部下として、同僚として自分の能力が認められるのは正直、嬉しい。でも、できれば家族のように慈しんでほしい、人生のパートナーとして誰かに愛してほしい。地位も家名もなく、こんな家業をやってる限りそれは果てしない夢と諦めていた。
「おいで。抱きしめてあげる」
伸ばされた腕や肩、胸、きれいなアイボリーの肌に赤い痣。
「慰めるのか。こんなことした俺を」
「どう受け止めるかは君次第。怒りに翻弄されるよりはいいと思うよ。ほら、おいで」
招かれるまま顔を埋めると、まるで親が子にするように髪や背中を優しく摩られて涙が溢れてくる。
「もう……いい」恥ずかしさで身を引こうとするが、「まだだよ」と却って強く抱きしめられる。
「愛されたいと思ったら僕のところにくればいい。いつでもこうしてあげる」
「どうせ誰にでも言うんだろ」
「誰にでもってわけじゃないさ。本当に気に入った人だけだよ」
顔を上げると優しくキスを何回も落とされた。
「もう一度?」
「……ああ」

柔らかな唇の感触。
絡み合う舌。
肌を摩る指先がポイントを探り合い、嘘偽りなく、どれだけ気持ちいいかを告げることができる。なんという快感。
「もっと?」
「うん」
ふくれあがった先端から滴る汁で腹がぬめり、露になった裏筋を指先が往復する。
「開いて」
言葉のままに股を開くとその間にうずくまると玉を揉みしだき、濡れた唇が俺を頬張って舌で転がす。
ざらりとした感触がこの上もなく気持ちいい。
この快感を与えたくて顔を上げさせ、入れ替えた体に覆い被さって甘く香しい果物のように慎重に口に含む。
愛撫するたびに細腰の突き上げる間隔が短くなり、ぬるく苦い精の味が俺の口の中に広がった。
そして、残った力のすべてを尽くして締め付けた彼に精を注ぎ込んだ。
今は夢を見ずに寝られそうだ。

目が覚めると夕方、隣にいたはずの彼の姿はなかった。
(ベッドを抜け出る気配も分からないくらい熟睡してたなんて、俺らしくもない)
服を整えていると窓の外から「起きたね」と声をかけられた。
きちんと身支度を整えた彼はまるでどこかの王子か貴族のように凛とした姿で、近づきづらい雰囲気だ。
「こっちに来てお茶でもどうだい」
差し出されたお茶の味は高級品。添えられた菓子のどれもが美味。
「君は商人でもないし、受付で名乗ったのも偽名なんだろ? まっ、言わなくてもいいよ。とにかく、今度はこんなに気持ちが荒ぶ前においで」
(いったい、彼は何者なんだ。探り出して……いや、止めておこう)
俺の苦笑いを了解ととったのか、彼は「次はもっと楽しもう」と言った。
「いいね。ただ……」
「なに?」
「『君』じゃなくて、俺の名はヨザック。できれば名前で呼んでほしいね。あんたの喘ぎ声で呼ばれたらゾクゾクするだろうから」
「いいとも。よろしく、ヨザック。僕は健。そのハスキーな声で『健……もっと』とか言われたら確実に勃つね」
「はぁ? 俺が突っ込まれるのかよ」
「その気もあると見たけど?」
互いに正体は明かさず、寝た相手とにこやかに軽口をたたあうのもまた楽しい。

結局、ここは変わった娼館なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
とにかく、人の持つ三大欲『食欲・睡眠欲・性欲』のいずれもがここには揃っているように思える。
もちろん『健がいる』という前提でだが。
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