Section 2

ヴァン・ダー・ビィーア島の火山は活発に噴火を繰り返し、そのため島に定住する者はおらず、近隣の海域で漁をする漁民達が予備の船や網、漁具などを納めた納屋や、時化や一時の休息のための簡単な小屋があるという。
こちらの港から島まで乗せていってくれる漁船を探し、ようやく島に着くのに出発してから12日が過ぎていた。
乗せてくれた漁師によると着いた浜から島を半周した山麓にその男はいるという。
「あの男なら、日がな山を歩くか、作業場で何か作っているかで、ろくに口もきかんぞ」とは、道を尋ねた漁師の弁。そのような男でも、この剣に興味を示してくれれば良いのだが。
島を巡る道を進むと以前に流れ出た溶岩の黒い固まりが道を横切っていたが、そこにも逞しい雑草達がおのが陣地を増やそうとしてた。
海岸線を左手に見ながら更に進むと、所々に見えていた砂浜の色が段々灰色ぎみに、やがてキラキラと輝く黒い色に変わった頃、うっそうと茂った森が見えてきた。島のこちら側には火の川の被害はなかったらしい。瘴気に犯されていない森を見たのは久しぶりだった。日に輝く様々な緑は見ているだけでなぜかとても安心できた。
立ち上る煙が見え、明らかに踏みしめられた道を辿り、森の奥へと向うと、やがてカン、カン、と金属を叩く音が聞こえ出し、掘建て小屋のような住まいが目に入ってきた。
「失礼いたします」
ドアはなく、布が垂らしてあるだけの入り口で声をかけてそっと押し開けると、熱気が籠る中、明々と燃える炉の前に一定のリズムで金槌を振るう薄汚れた男がいた。
もう一度「失礼いたします」と声をかけたが、振り返りもせずカンカンと規則正しい音がするばかりだった。
男が一日の仕事を終えるのを待っている余裕はない、こう云えば鉄に魅入られたこの男も振り返るだろう。「珍しい、誰も見たことのない金属でできた剣をご覧になりませんか?」
左手に持っていた鉄片を水に差し込み、右手の金槌を脇に置くと、やっと男は振り返った。
「……見たことがない……だと」
しわがれた老人のような声が火の爆ぜる音の合間に聞こえ、ゆっくり立ち上がるとこちらへと向ってきた。煤に汚れた顔だったが思ったほどの年寄りではなく、その瞳は生き生きと輝いていた。
背負っていた荷物を下ろして括り付けていた剣の布を解き、目の前の彼に差し出すと剣を眺め、それから私を眺め、「触れてもいいか?」と云った。
「どうぞ。これを再び使えるよう、あなたに打ち直して欲しいのです」
返事はなく、剣を取り、見つめながら炉の前に戻ると火に晒し、改めて隅々まで見ているようだ。
しばらくして「確かに珍しいな」、「だが、前に見たことがある」と続けた。
「見た? どこでです? どなたの持ち物でしたか?」
「まあ、待て。若いの」
「しかし……、私は知りたいのです」
「俺が見たのは20年ほど前だ。お前さんのように見事な黒髪の男が持っていた短剣がこのような刀身を持っていたんだ」
「どこでですか?」
「あれは……どこだったか。とにかく、あまりに珍しかったので売ってくれと頼んだが、守り刀だからだめだ、とな。使えるようにしろだと? お前もやはり売る気はないのか……」
「申し訳ありません」
「まあ、いい。あの時から俺は自分でこの刀を作ってみたいと思っていたんだ。なあ、この剣がどうやって作られたか知っているか? 混じり気のない砂鉄を高温で溶かし、叩いて板状にし、水につけて余分なものを落とす。これを何度も繰り返すと混じり物によって鉄が分離して……、フン、興味のない者には面白くない話だな」
「いいえ、そんなことは……」
「やってみよう。ただ、俺のやり方で構わないな?」
「もちろんです。あなたのやり方でお願いします」
こうして、男は目釘を外し、鍔と柄を外し、刃だけになった剣に金槌を打ち付けて折り曲げ、砕いていく。
「なにをなさるのです!!」
「俺のやり方で良いと言ったな? 切先だけ繋げればいいと思っていたのか、お若いの。そんなものは剣ではない。一旦鋼に戻し、新たな鉄を加えてもう一度鍛え直さなければ、剣としては使えん」
止めようがなかった。男は剣を砕くことにだけ集中し、私のことなど忘れたようだ。
跡形もなく砕かれ鉢に入れられたかつての剣を炉の中心に置くと、やっと男は私がいたことに気づいたようだ。
「暇そうだな」
「……そうですね。何かお手伝いすることはありますか?」
「まずは、腹ごしらいだ。お若いの、自分の食料は持っているな?」
男とともに裏の泉に行き、持たされた壺にたっぷりと水を汲み、その水を湧かして茶を入れ終わった頃、水浴びを住ませた男が帰ってきた。
特に喋ることもなく黙々と食事を済ませ、片付け終わると男は万年床にゴロッと横になってしまった。
仕方なく、引いてあるゴザの上にマントを被り、私も寝ることにした。これが初日。
翌日から男は作業にかかり、何もすることがない私は男の作業を時折のぞき見たり、海岸や森の中で思い返していた、あの光景を。

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