打開策はなく、辛うじて奴らの侵攻を少し遅らせる程度しか術がない私たちは使えるものならなんでも使う気になっていた。たとえそれが正体の知れない存在であったとしても。
「ご存知でしょ、協力してください。あなたの力が必要なんです」
「俺はあいつらと話す気はない」
「話すのは私がしますから」
「無駄だ、止めておけ」
「あなたはもっと血を流したいんですか!! ……お願いです、どうか」
説得には簡単に応じずとも懇願には耳を傾けるあの人は、結局、共に剣を握ることに同意してくれた。
{我}の語る言葉は曖昧で、正確な意味合いを問いただしても{我}自身が『人』の言葉を完全に理解していないのは明らかで、堂々巡りとなることもしばしば。それでも分かってきたことはある。これは私の解釈であるため誤りがあるかもしれないが、だが、こうとしか思えない。

  1. {我}とはこの世界ができた当時からいた(あった?)意識体、らしく
  2. {我}の中にはいくつか異なる意識はあるものの明確な区別はなく、全体でもあり一部でもある。
  3. 彼らより後に生まれた、人間を含めたこの世界に存在するものの中には{我}と通じるものも稀にはいるが、ほとんどは通じない。
  4. 我々が『創主』と呼んでいるものは、要因は分からないが人間の持つ悪意と結びついた{我}自身が好ましからぬ己の一部、であり
  5. {我}は自身が『創主』の影響を受けつつあることを否とし、自らを分けるために我々の協力を求めている。
  6. (これは{我}に『死』という概念がないらしいことからだが)『創主』を切り離しただけでは完全消滅はしないが、
  7. {我}の言葉によれば、この世界から放逐することはできる、らしい。

「それで、お前は信じるのか」
「信じるもなにも、これまでの戦い方ではらちが明かないのは明白。試してみるのも悪くはないでしょう」
「得体の知れないものに頼るとはな。……それで、皆にはどう話す?」
「話しません。言っても信じないでしょうから」
「そうか。それでは軍師殿の戦略を拝聴するとしよう」

「今までのことから推察できるのは、創主の真の正体は不明にしろ、黒く漂う霧が人々に影響しているのはご承知の通り。霧だととすれば、この大気の中に拡散させ薄めてしまうか、何かに閉じこめてしまうかのいずれかでしょう」
「だが、軍師殿。あれは風などでは動きもしませんぞ、影響など受けているようには見えない」
「ええ。だから残るは封印してしまうしかありません」
「何に、どうやって!?」
「あんな大きなものを封じ込めるなど!!」
「正気でおっしゃっているのか!?」
「いくらあなたでもそれは不可能だ!!」
皆の疑問が内なる声のように感じる。考えて、考えて、その疑問に対する答えを探し、私は私を、納得させた。
「策については明日お話します」
「なぜ今ではないのです!!」
「そうです、今話せないのにどうして明日なのですか!?」
(軍師殿はおかしくなられたのではないか?)
(まさか、アレにやられたか?)
(策などないのかも知れぬ)
非難とヒソヒソと語られる不信。もっともなことだと私も思う。
「明日、この方の戦いを見てからお話した方が、皆様も納得されると思うからです」
上座に座る、我関せずとしたあの方はちらっと横目で私を見た。

翌朝はよく晴れた日だったにも関わらず、丘から見る彼方には相変わらずの黒く、手前には薄いグレーの霧。部隊長たちから発令されたその日の戦法は今までのように進軍を停めるのではなく、あの方がただ一騎、霧の中心に飛び込むための道を切り開くこと、それだけ。
もちろん心配の声はあがったが、それらはあの方から遠く離れて戦う者たちで、近くにいた者たちからはほとんど聞こえてこなかった。皆、あの方はあの霧、創主の影響などものともされないと、薄々感じていたのだ。
昼前、中腹で騎乗のまま控えていたあの方が鞘からモルギフを抜き、丘を取り巻くように二分された創主の軍の中核へと切り込んだ。

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