陽光を受けて輝く金髪が霧を突き進む。それまで周囲を取り巻く薄いグレーだった霧があの方の周りに集まり、次第に濃くなって、色という色を飲み込んでいくのを私たちはハラハラしながら上から見守っていた。
「……軍師殿」
「大丈夫です」
「でも、もうあの方のお姿が見えませんぬぞ」
「兵を動かしましょう。このままでは──」
乗り手のいらつきを感じ取った馬たちが脚を踏みならしていななく。
「もう少しお待ちください」
「そうおっしゃるが──」
「あれは、あの方か!?」
「おおっ、なんと!!」
霧の中から一条の光がほとばしり軽々と周囲を切り裂き、開けた空間にあの方の姿があった。再びモルギフを振り上げると霧はその切っ先に吸い寄せられるように漂い集まり、勢い良く振り下ろすと二つに分かれる。何度が繰り返すとあの霧が薄くなり、創主の兵たちが勢いが鈍くなっていくのが判った。
「さあ、あの方のところまで兵を推し進めましょう!!」
「おおっ!!」
その日は我々の記念すべき一日となった。初めて創主の進軍を停めたばかりか撤退すらさせ、戦いの最前線は2日前までに戻っていた。

夜、引き上げてきた天幕であの方は横になっていた。
「お疲れのところ、大変申し訳ないのですが……」
「またか。俺は寝ていてもかまわないな」
「はい、結構です」
寝台に添い寝をするようにモルギフを置き、怠そうに柄を握る手に手を重ねる。

{我の力を見たか}

{はい。この方をお守りいただき、ありがとうございます(今日の声は今までより幾分若く感じる)}

{『若い』とは何ぞや}

「思ったことがそのまま伝わってしまうのは大変だな」
笑いの中に皮肉たっぷりのあの方の言葉に思わず私も苦笑する。
{しかし、本日のはアレのほんの一端です。全体をあなたから切り離すにはどのようにすればよいのでしょう}

{『一端』『全体』とは何ぞや}

「相変わらず面白い問答だな」
{質問を変えましょう。あなたにはなにができますか}

{我は『植物を揺らす』ことができる}

「{……風?}」

{よくは判らぬ。ただ、そう呼ぶ人がいる}

{それなら、抜けるところのない囲まれた場所では力を失うのではありませんか?}
思わず重ねた手を強く握った。

{『力』とは何ぞや}

{ああ。それでは……あなたには途中でそれまでの意識が消えたという覚えがありませんか}

{人の言う言葉を我が正しく用いているのならば、『消えた』ものは『覚え』てはおるまい}

クックックッと咽喉の奥を鳴らすような笑い方。けして、大きく口を開き、高らかに笑うことのないこの人独特の笑い方ではあるが、このような時に聞くといくら私でもムッとする。手を離し「人のことを笑うなら、あなたが質問されればいいでしょう」と感情をぶつけた。
だが、素知らぬ顔で柄飾りの額の石に指先を乗せると、「まあ、落ち着け。お前は正確さを求め過ぎるのだ。子供に話すようにしてみろ、この幼子に語るようにな」愛でるように撫でている。こんな光景は見たことないが、まるで愛し子の髪を撫でる父親のようだ。
「……そうですね。あなたの言う通りだ」

早朝、部隊長たちは意気揚々と集まってきた。
「昨日は見事でしたな、軍師殿」
「やつらはまだあそこに留まっておりますぞ」
「それで、この後はどうするのですか」
「なんでもおっしゃってください、全力で従います」
「まあまあ、皆様。どうぞお掛けください」
人々の希望に満ちた視線に私は疚しさを覚えた。私はこれからこの善良な人たちを欺かなければならない。
「では、これからの作戦についてご説明いたします。
昨日、ご覧になったようにこの方には創主を集め、切り、薄めることが可能です。しかし、それだけでは滅ぼすことはできません。兵全員がこの方と同じ力を持っているわけではないのですから。
そこで、
私はこの方の力を持って、封印することといたしました」

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