Section 5

計画通り、私たちは軍を三分割した。ベラール殿を隊長とする先発隊は進路に住む人々の退避を促しながら、創主を封じ込める箱の設置をするため既に出発している。主部隊は創主の兵たちを進路から外れないように挟み込むべく、二手に分かれて配置についた。そして今朝、あの方は数名を連れ、創主をおびき寄せるおとりとなった。

「賢者殿。全員配置につきました」
「それでは、旗を掲げるように」
あの方と主部隊のあいだ辺りに留まっていた私は戻っていく伝令の背中越しに全景を見ていた。手前から順々に掲げられる旗、それまで吹いているとも感じられなかった風が徐々に強くなり、やがて我々が風上にいることが明確となった。精霊──あるいは、風の神イーライ?──は約束通りに動いてくれるらしい。
私は持っていた旗を振り、あの方に、全軍に、そして精霊に進軍開始を指示した。
鞘から抜いたモルギフを高く掲げたあの方はまるで波を切る船の舳先のように風は二つに断ち、中央の巻いた風は創主の黒い霧を集約させ、追い立て始めている。

我々は常に向かい風から外れないことを心がけつつ黒い霧から飛び出したものたちだけと戦い、やがて行軍が進むにつれてその数は増えていったが戦闘自体は激減した。騎乗ならたいした速度ではないが、徒で進む創主の兵には早く、それ以上に黒い霧から遅れることでその支配から解かれ、戦わずして屍と化した。
「賢者殿、これまでの戦いが嘘のようだ」
「彼らを突き動かしていたのは創主が煽り立てた彼ら自身の邪念です。その支配がなくなればただの人。飲まず食わずで何日も動けるはずがありません」
「……哀れですな」
黒い霧から遅れ、命を残したものも剣を振るう力はほとんどなく、素直に我が軍に下るものは生かし、あくまで抵抗するものは刀の露とした。
無限とも思われていた創主の兵は日を追うごとに少なくなり、戦闘範囲は狭まっていった。

いくら普通の剣より細く軽い剣であっても掲げ続けることは難しいはずだが、あの方は疲れも見せず振り返りもせず目的地へと突き進んでいく。モルギフはあの方しか持てず、仮に他のものが持っても創主が後を追うかは判らない以上、仕方がない。
飲食はもちろん、夜は手綱を伴のものに持たせ、モルギフを手にさらに肩に括り付けて騎乗のまま仮眠を取った。そうして5日目、めざす場所が見えてきた。

雪をいただく山脈の外れに明らかに色の違う道がはっきり見える。ベラール殿が言うには、遥かな昔、そこには高くそびえ、蒸気を吹き上げる山があったそうだ。ある日、轟音とともに黒い雲と岩と火を吹いて山の半分以上を吹き飛ばし、斜面にできた楔型の切れ間から熱い川が溢れ出して周囲を燃やし、収まるのに数年を要したという。
今、我々が見ているのは薮や低木が繁る荒れ地を横断する、波打つ黒い道だ。

緩い上り坂は段々と厳しくなってきた。黒い霧の大部分はあの方を追って楔形の向こうに消えようとしている。残っていた創主の兵たちはさらに脱落し、残っているのはおよそ2〜3百。彼らはもう脅威ではない。
我々の役目は中に入らず、また創主の兵も中に入れさせないこと。
ここを創主の終焉地とするのだ。

戦闘は他のものに任せ、斜面を登って中を見た。稜線はこちら側から向こう正面に向かって緩やかに高く、自然の城壁のようだ。内側は大きな街が一つ楽々収まる広さで、やはり薮や低木が点在し、その動きで風が渦巻いていることがかろうじて判る。
「賢者殿!!」
「ヴォルコフ殿!? なぜここに」
「『蓋を閉じるだけなのに10名もいらない』とおっしゃって。中にいるのはベラール殿とウェラー殿、あと2名です」
「わずか……4名。それでは足りない!!」
「今すぐにでも追加の兵を送るべきです!!」
「私が行きましょう」
「私も行きます」
「お待ちください!!」

用意された箱を見た時、私は重要なことを忘れていたことに気付いた。
「さて、創主を切りながらこの蓋も俺が閉じるのか?」
相変わらず、からかい気味の口調。ただ、今回はそう言われるだけの落ち度が私にはあった。
「……いいえ」
「では、どうする? 創主の影響を受けぬものが俺の他にもいるか?」
「いないでしょう……たぶん」
「精霊というやつに守らせるか」
「『守る』という概念があるでしょうか」
「まっ、言ってみるんだな」

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