{『守る』とはなんぞや}

予想していたとはいえ、やっと創主を滅ぼせるという期待がここで潰えてしまうかと思うと落胆した。
「{かの地にいる人を取り巻いてアレを近づけないようにすることはできるか?}」
「……!?」
「{答えよ。かの地にいる人を取り巻いて、アレを近づけないようにすることはできるな}」

{可である}

「{では、やってもらおう}聞いたな? これで話はついた。まったく、感謝の一言もないのか? 俺があいつらとしゃべりたくないのは知ってるだろう」
「あ……はい、ありがとうございます」

「大丈夫、任せましょう」
「しかし──」
「あてはお有りなのですな、賢者殿」
「作戦が始まってからの風の動きを思い出してください。このような吹き方をしたことがあったでしょうか」
「……何をおっしゃりたいのです?」
「あの方は風すら味方とされたのです。我らをお守りくださったように彼らもお守りくださいます」

薄く広がっていた黒い霧は渦巻きながら、ときには抗うように広がり、あるいは弱々しく縮小し、形を持たぬ生き物のように中央に集約されていく。その合間合間に箱と数名の人影と騎乗のあの方が微かに見える。
これだけ離れた場所に届くとは思えないが、私の耳にはモルギフが切る風の音が聞こえる。光がモルギフの切っ先の動きを煌めかせ、その度に千切られた黒い霧が箱へと吸い込まれていく。創主の消滅は順調に進んでいたかに見えた。

当初の予定では、あの方の合図を受けて箱の周囲に控えていたものたちが蓋を閉じる手はず。
精霊の守護があるともいえず、凝縮して力を濃厚となる創主にさらされる、すなわち創主の兵になるかもれしない任務を軽々しく人に任すことなどできない。私が自分でその任務を遂行するつもりだった。
「いいや、ダメだ」
「なぜです、私なら彼らが守ってくれることを承知しています」
「確かに他のものに説明しても理解できまい。俺ですら全面的に信用してはいないからな。よく考えろ、お前の他に誰がこの作戦を指揮するんだ?」
「では……誰に頼めと?」
どんな人間なら創主に抵抗できるだろうか。頭の中でこれまでの戦闘を振り返り、支配されずに済んだものたちの共通項を探した。

「ベラール殿、少しよろしいか」
剣の手入れをしていた彼が面を上げた。このような場所でどうしてこのように穏やかでいられるのだろう。
「深刻で内密な話……のようですね」
優れた洞察力。「ええ。実はお願いしたいことが──」
「お任せください」
「話も聞かずに……」
「分かっているつもりです。コルピ殿の作る箱を見て思ったのです『この蓋は誰が閉じるのだろう』と。かの地を一番良く知るのは私ですし、三男坊の上にすでに息子もおります。家が途絶えることはありません、どうぞ、心安くご命じください」
確かな観察力と豪胆さ、快活さ。
「ありがとうございます」
「それにしても、コルピ殿が渾身を篭めたあの箱。蓋もかなりの重量でしょうな。何名か私が選んでも良いでしょうか」
「よろしくお願いいたします。ただ──」
「大丈夫、やたらに選んだりしません。心の強い……、いや、安定したものが良いのでしょ?」
「強すぎる心は柔軟さがなく一つの事に思い固まってしまう傾向にあります。そういうものが一度創主の支配に捕らわれると逃れることができない。そう私は考えています」
そうして彼は自分の従兄弟ウェラー殿と故郷から連れてきた部下の中から数名を選び出した。

あと4〜5断ちで黒い霧がなくなるかというとき、それは起こった。
開いた蓋の下から誰かが飛び出ると、いきなりあの方に切り掛かったのだ。
精霊が複数を認識できず庇護の範囲が分からない私は『箱から離れないこと。指示があるまで箱と開いた箱の蓋の間に隠れて、周囲は心して見ないように』と指示していた。
(いかに精霊が守護しようと、人は恐怖に負けるものなのか……)
不意のことに驚いた馬はバランスを崩してあの方の反応が一瞬遅れ、創主があの方を覆い尽くす。続いて飛び出したものが先のものと応戦している間に黒い霧を切り払って、再びあの方の姿が陽光に輝く。
(この姿……まさに『王』だ)
「蓋を閉めろ!!」
風に乗って聞こえてきた、あの方の声。
残った二人が重い蓋を閉じようとする姿と戦っている二人の姿が重なり、はらはらしている私たちの前で風が止まった。

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