夜がすっかり明けた頃、港に漁船が戻ってきた。生者と数名の死者を乗せて。
報告から作成した名簿と名前を照合した結果、「海にのまれたもの52名に対し、生者41名、死者6名。5名がまだ……」
「沖ではまだ捜索しているが、あれから3刻も経っているんだ……諦めろ」
この方のやや青ざめた顔色は疲れのせいか、船のせいか。背後から聞こえる喜ぶ声、悲しむ声、さまざまな声の中にマティアス殿の呼び声が聞こえた。
「こちらにいらっしゃいましたか。眞王陛下、無事のご帰還をお祝い申し上げます」
深々と頭を下げたマティアス殿は次に私に視線を向け「見事な策でございましたな」、その後、神妙な顔つきで「その……名簿を見せていただいても良いでしょうか」と云った。
手渡された名簿の、×のついている名前を指差すと「このものはどこに……」
「その方でしたらあちらに寝かされております。……お知り合いでいらっしゃいますか」
「え、ええ。……息子です」
「でも……お名前が」
「私の妻は一人娘で、婚姻に際して向こうの家から懇願されたのです、家を継ぐ男の子が欲しいと。それで次男のカールをウィンコット家の養子に……」

祝宴と弔いが済み、人々が元いた場所に戻ろうとしている。
人々が築いた堰はマティアス殿より「もうここまで来る大波はないと思いますが、将来の人々への警告として残しておきたく存じます」との申し出があり、箱については「この地よりどこか遠く、誰にも迷惑のかからぬ場所に人知れずお捨ていただけないでしょうか」と。
前回のものとは違い、山一つ超えたところにあったのでは不安に思うのは当然。それより亡くされたご子息を思い出すからかもしれない。
「ご要望の通りにいたしましょう」とは答えたが、どうすれば良いのか。

砂に半分埋もれた箱を前に「海に沈めるというのはどうでしょう」
「ここから掘り出して港まで運び、沖に捨てるか。人知れずとはいかんな」
「では、何か案はございますか」
「それは賢者たるお前の仕事だ。俺は館に戻るから、ゆっくり考えるのだな」
相変わらず戦い以外のことになるとどうしてこうも素っ気ないのか。
あれだけの波を受けても箱に損傷は見られない。それに内側は金属を張り巡らしてあるので、木だけより水の腐食には耐えられるだろうが、どうも良案とは思えない。
「軍師殿。先ほど眞王陛下とすれ違いましたが……。お悩みのようですね」
「ウェラー殿。ええ、そうなのです」
「どうでしょう、かの地に埋めてしまうというのは。人々は箱一つ埋まっていることは知っておりますが、まさか二つとは思わないでしょう」
「宜しいのでしょうか」
「何の役にもたたぬ荒れ地です。それに加えて、あの戦いは後々まで語り継がれるもの。そんな恐ろしいところに敢えて住んだり、開墾するものがおりましょうか」

他に良案の思いつかなかった私はこの言葉をありがたく受けた。
やがて、この箱を再び目にするとも思わずに。

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