明るく照らす満月のもと、後宮の庭に設えた舞台の周囲には松明が焚かれ、舞台脇には楽師達が楽器の調子を整えている。
舞台正面は謁見の間に面し、室内では中央に王が座し、向って右には王妃、左には第二夫人、それぞれが生んだ子供達が脇に並び、それが第一列目。二列目以降には数えきれない後宮の女達が連なり、観客席から溢れた身分の低い女達は、翼棟の前に椅子を出して腰掛けたり、二階や三階の窓越しから顔をのぞかせていた。
このとき既に10歳を越えていた俺は後宮から出され、後見である旧家で養われていため、本来なら母の舞台を見ることはできないはずだった。
だが、久しぶりに都に戻った母は俺が見られるよう王に掛け合い、かくして舞台の袖から目立たぬよう、母の舞を見ることになった。
幼い頃、何度か目にしていたはずなのに、なぜ母が『神々に愛されし舞姫』と称えられるか理解したのはこの時だった。
そして、当時は幼かった、今目の前に倒れているこの男と、その母を目にしたのも……。

舞台の脇で待っていると楽師達が音を止め、それと共に遠くから金属のぶつかり合うシャンシャンという音が聞こえてきた。音は母の手首や足首につけた金具から発せられ、近づくにつれ薄衣の擦れ合うシュッシュッという音が加わった。
俺を見つけて頬を一撫ですると「ここで見ててね」、そう言って深呼吸後、王達の面前へ、舞台の中心へと歩を進めた。
世界から音が消えたように静寂が続く中、うずくまった母が糸でつり上げられるように腕をゆっくりと上げると、それに合わせて楽師達が曲を奏で始めた。
肩が起き、胸が上がり、膝をついて一歩踏み出し、すっかり起き上がった全身が四方に掲げられた篝火に浮かび上がっている。
最後に、それまで落としていた視線を正面に座っている王にひたと合わせ、それまでの静かな動きから一変、激しく衣を揺らし、周囲の空気をかき混ぜるように舞い始めた。
何もない空間に母は何かを見つけ、伸ばした手で掴むと引き寄せ、そして遠くに投げ。
篝火の一つを指差すと、炎は高く燃え上がり、舞台を動き回る足元からは散らばった花びらが高く舞い上がって、母の周りを渦となって取り巻いている。
一瞬にして世界の全てを従わせる母の舞いは、誰もの視線を捕らえて離さない、……と思っていた。
だが、違っていたようだ。

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