早春と晩秋、とある小路の左右に軒を連ねる宝石店は老若男女で賑わう。結婚を控えたものだったり、豊かな収穫に気を良くしたものだったり。もちろん、飾られた品々を見て心躍り、値段を思って(いつかは……)と思う方が多いけど。
飾られた中に昔、ムラタァのために作った魔石入りトゥーリングに似た指輪を見つけた。
そう言えばあれはどうしただろう。返してもらった記憶はないから、きっと彼がこちらを去るときイニュスに返したんだろう。しばらく金欠病だったが、さっすが超一流店の仕事だって感心したっけ。
靴と靴下に隠されていたのがもったいないほど、ほっそりした足の指にはまったあれはきれいだったな。
もう同じものを作る金はないけど、今度、指輪を用意したらつけてくれるかな。

「今日はよく歩いたんですね。筋肉がパンパン」
「うん、季節がよくなったから。あぁ、そこ」
うつ伏せの腰や背中を揉みほぐすと「さっ、起きて」
首筋や肩をマッサージし、そのまま腕を伝って指先まで。
「書き物はしてないから指は疲れてないよ」
「いいでしょ、俺がしたいんだから」
形の良い指先は変わらないが、昔より筋張って関節が太くなっている。サイズ10……いや11かな。
「今日はいやにその指だけ丹念だね」
「あっ、いえ、べつに」
薬指の付け根にキスをしながら「ねぇ、ここに……」
自由な右手が俺の髪をいじる。
「届けを出して……ここに」
「このままでいいと思ってるけど?」
「実をいうとですね、家族持ちになると給金がちょっと増えるんですよ。『フクリコウセイ』っていうらしいんですが『被扶養者一人当たり銀1枚割り増し』って、陛下が」
「ああ、なるほど。ところで、ウチの家計ってそれほど苦しかったっけ?」ムラタァが苦笑する。
俺の言いたいことが分かってて、ムラタァはまた話をはぐらかす。
結局、この話が進むこともなく、その晩はここまでに終わってしまった。

季節は移り変わって、盛夏。ルッテンベルクは日差しこそ強いが、朝晩は肌寒く感じるほど。高原のため麓の村々では終わっている麦の刈り入れがちょうど盛りだ。
「お疲れさま」
担いでいた籠を置いた俺にムラタァが水を差し出した。汲みたてらしい冷たさにスゥーと汗が引く。
「ああっ、美味しい。これでもう一働きできますよ」
「君は貴重な戦力だもんね。さっ、しっかりお昼を食べて、午後もがんばっ!!」
前庭に持ち出された大テーブル一杯に刈り入れに参加していない老人と子供たちが用意した昼食を食べていると、子供たちの何人かが同じく今が盛りの花で作った冠や首飾りをしているのに目が停まった。
「可愛いね」
「本当ですね」
日が暮れて館に戻った俺は「お帰り」というムラタァの左手を取ると、昼間見た花で作った指輪を薬指に差し入れた。
「毎日作りますからね。あなたが『うん』というまで」

短い休暇が終わって王都に戻るムラタァの指には俺が送り続けた花の指輪があった。
これが枯れることなく輝く指輪に変わったかどうかは、ご想像にお任せする。

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