フォンビーレフェルト卿たちは渋谷の分こそいろいろ用意していたが、まさか僕にシマロンの領主にヨザックまでいるとは予想していなかった……当然だけど。

逃げ出した馬を捕まえて放置された荷馬車に繋げ、箱と僕らを載せると一行は小シマロンの荒れ地からカロリアへと出発した。人目を気にしつつ、道々、水や食糧、使えそうなものをかき集め、僕たちは言葉通り、帰る道すら不確かな避難民だ。

馬車に揺られてろくに眠れぬ夜を過ごした数日後、半分崩れた山道に隊商のものと思われる荷が大量に散らばっていた。放り出して逃げたのか、それとも土砂に埋もれてしまったのか。
「ちょっと止めますね」
手綱をダカスコスに預けるとヨザックはその荷を漁り始めた。それを見ている渋谷もフリンも苦痛な表情は浮かべているが「止めろ」とは言わない。今の僕たちがカロリアにたどり着くためには必要なことだと頭では理解しつつ、他人のものを盗むという行為への嫌悪感も消せないでいる。
いくつかの荷を載せると道幅を確認しながら馬車を進め、再び手綱を取った彼は無言で先を急いだ。

夕暮れの中、木立に隠れるように馬車を止めたヨザックは一抱えほどある荷を下ろすと軽い口調で「今日は足を伸ばせますからねぇ」と言いながら何かをせっせと組み立てた。
でき上がったのは大きめのテント。そして、誰がここで寝るかでもめることとなった。
当然、利用者第一号は渋谷。次が女性で一般人──フォンクライスト卿は兵士だし──のフリン。「村田もだろ?」と渋谷が言えば「僕は婚約者だからな!!」とフォンビーレフェルト卿が名乗りを上げた。
4人でもなんとか寝られそうだが、僕はその容姿からついフォンビーレフェルト卿をからかって犬猿の仲状態、渋谷との仲を邪推するフォンビーレフェルト卿はフリンと見えない火花を飛ばしあい、見事に三竦み状態。
いたたまれなくなった渋谷はその場を逃れ、それを追ってフォンビーレフェルト卿が出て行き、残った僕たちは顔を見合わせた。

「夫以外の殿方と寝室を共にする気はないわ」
「へぇ〜、馬車や船の中ならいいんだ」
「二人きりじゃなかったでしょ!!」
「つまり、僕に出ていけって? ふぅ〜ん、慇懃に従わせようなんて、さっすが領主様」
「嫌みな言い方ね。女性に対する礼儀よ!!」
「渋谷を監禁拘束して、小シマロンに売ろうってした人がよく言うよ」
沸点の低い彼女はすっくと立ち上がるとテントを後にした。表ではフォンビーレフェルト卿とフリンが何か言いあってるが、僕の知ったこっちゃない。

灯されたランプはテント内を明るく照らす一方、外をよりいっそう暗くし、賑わいを遠くしている。
「入りますよぉ」
背を屈めて入ってきたヨザックはそのまま僕の前に座り込んだ。
「やぁ」
「……いらなかったですかね、これ?」
ちょっと寂しそうにも見える。こうして向かい合わせに座り込むと初めて会った夜を思い出す。
「そんなことないよ、ありがとう」
僕の言葉に戦士の彼からは想像もできないとても素直な笑い顔を見せ、ランプのせいとは言い切れないその眩しさについ顔を伏せた。
「このまま使われますか」
「せっかく君が組み立ててくれたんだからね」
「一人だと寂しいでしょ? ……添い寝しましょうか」
(はぁ?)と思いつつ顔を上げた僕の目に入ったのは、どこまで本気なのか読めない瞳。
(……するかな、僕が望んだら)
「なぁ〜んてね。さっ、食事、食事。早く行かないとみんな食われちまいますよ」
腰を上げ、天幕へと歩いていくその広い背中に抱きついて引きとどめたい。
無意識に使っていた古の大賢者の記憶にはこんなときどんな言葉を使ったか、探しても見つからない。
だから、自分が所属する世界の言葉を口にした、多少の熱を込めた小さな声で「バカ」
そして立ち上がり、幕を上げたまま振り向いて差し出したその手に自分の手を重ねるため、僕は歩き出す。

これ好き
ハートをあげる!! 7
Loading...