「ねえ、ケン」
シュッシュッとシルクブラウスを着る音をさせながら彼女はさもなにげないように告げたので、ベッドに腰掛けて履き捨てた靴を探していた僕は「んっ、なに?」と返した。
「あなたはお洒落だし、いろいろなことを良く知っているし、気の利いたジョークにさりげないエスコートも自然だし、正直、ゲイだと思ってたの」
「まあ、よく間違われるよ」
「最近でも珍しいほどほぼ満点の男、なんだけど……」
次に何を言うか、なんとなく想像できた。
「でも、女って誰かと比べられるのは嫌いなものよ」
化粧を直して振り向いた彼女は、自立した女の顔をしていた。

地球での生活を始めた30になろうとする僕は、今になってもまだ隣に立つ相手の顔を見るとき、その視線を身長2m越えの位置に合わせてしまい、差し出す腕は明らかに高く、抱き締めた腕が余ることに一瞬戸惑いを見せてしまう。
明らかに男性より観察眼の優れた女性が気付かないはずがない。
バッグを手にした彼女は「これまでにしましょう」、ニッコリ笑うと僕の返事を聞かずに部屋を後にした。
(またか)
気楽に付き合うなら大した問題にはならない。
ただ、もっと深く付き合いたいと思う人に限って、その結果がこれだ。
別れを告げてから10年近く経っているのに。
無理に忘れようとしているわけじゃない、徐々に思い出さなくなっているだけなのに。

まったく、僕はどれほど君を愛しているんだろう。

これ好き
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