ほのぼの系

 今日中に帰ってくるときいていたけど、別に待つ必要なんてないから早々に自室に引きこもった。
 親友は親子水入らずで楽しんでいるようだし、それを邪魔するなんて無粋なことはするつもりもないから。
 それに、読みかけの本が気になっていたところだったし。

 ソファに寝転がりながら、お気に入りの本を読んでいる。
 この瞬間が堪らなく好きだったりもする。
 静かで、のんびりとした食後の時間。
 手元明かりと月明かりのおかげで、室内はとても明るい。
 それに、この時期独特の空気も手伝ってピンと張り詰めたような室内も、また居心地が良い。
 そんなことを頭の片隅で考えながら、さわっと頬に外気が触れた。
 窓が開いた瞬間だった。
 風上に目を向けると、この季節にも夜という時間にも似つかない髪色の彼が立っていて。
「猊下、おかえりなさい」
 そういって、柔らかく微笑んでいた。
「…おかえりって、それは僕の台詞じゃないの?普通」
「そうですかね。じゃ、改めて。ただいま、猊下」
「おかえり、グリエ・ヨザック」
 そういうと、なんだか照れくさそうにしていて。
 いつもと様子が違うように見える。
 それも疑問に感じながら、まだ部屋に入ってこない彼を不思議に思う。
 いつもなら、すぐに入ってくるというのに。
 だから、
「ヨザック?」
 と疑問符を投げ掛けた。
「猊下。ちょこーっと外に出てみませんか?」
 唐突に寒いそっち側に誘われる。
 だから、当然として断る。
「寒いから、やだ。それに、風冷たいから部屋に入らないなら窓閉めてくれないかな?」
 そういうも、首を傾げながら表情は変わらない。
「ヨザック。あのね、ホント寒いんだからいい加減にしてくれない?」
 そんなことを言いながらムッとした顔して、彼が開けたベランダの窓を閉めに行く。
「じゃあね」
 と面倒臭そうに開いてる扉に手を掛ける。
 するとその瞬間。
 伸ばした手を取られ、外に連れ出された。

 突然の行動に言葉すら出てこない。
 キョトンと彼の顔を見るだけ。

 胸元にすっぽり収まっている。
 人肌は変わらずあたたかい。
 でも、やっぱり寒い。
 だから、睨むようにして見上げる。
 すると、僕の顔を見ずにどこか…いや、一点をじっと見詰めていた。
 なので、つられるようにしてそちらのほうを見る。
 そしたら、珍しいものを見ることができた。

「夜の、虹」
 つい、怒ることも忘れて呟いてしまった。
「綺麗ですよね。あれ」
 その言葉で気付く。
「ヨザック、きみはあの虹を他で見たことあるの?」
 すると頷く。
「えぇ、ずいぶんと前の話ですけどね。でも、まさか猊下の部屋から見られるとは思いもしませんでした」
 そういう顔が、とても嬉しそうで。
 その表情のまま目が合う。
 そのせいで、なんだか彼の感情が伝わってきて。
 さっきまでの棘々しい気持ちが和らいだ。
「ははっ、まいったな。きみのそんな嬉しそうな顔見たら怒れなくなっちゃったじゃないか」
 そしたら、余計に微笑んで。
「虹、綺麗ですね」
 なんて呟く。
 だから、そうだね。って答えた。

 ふと、こんなことを思い出す。
 それは唐突な記憶の甦り。

「渋谷とか僕の生まれた世界では、夜の虹が見られたら『最高の祝福』なんだといわれてるんだ」
 まだ寒空の下に架かる虹を見ていう。
 すると、ヨザックは考え深そうに頷いて。
 それを不思議そうな顔して覗く。
「『最高の祝福』ですか…。なんか分かる気がしますね」
 どうして?と言う言葉を口にする前に、また彼の唇が動く。
「月明かりと、満点の星しかないこの漆黒の空に、あんなに多くの色を持った明かりが架かるんですよ?凄い幻想的だと思ったんで」
 なんて彼らしくないことをいうものだから、つい。
 大笑いしてしまった。
 それを怒ることもなく、ただ照れくさそうに苦笑いをしていた。

「ごめんごめん、余りにもきみらしくなかったから」
 そういっても、まだ笑いの余韻が残っていて。
 だからまだ笑いを引きずっている。
「でも、そうだね」
 と同意して、彼の見ている先をまた見詰めた。
 当分消えそうにない、その虹を。

 本当はずっと見ていたかったけど、次の瞬間にくしゃみをしてしまったから、今度は部屋の中に強引に押し込められてしまった。
 まったく、外に出したのは誰なんだよ。
 と思いつつも、彼の珍しい一面を見られたからいいかな?とも思って。
 閉められてしまった窓を、名残惜しそうに見詰めた。

 『最高の祝福』か、本当にその通りかもしれない。
 だって、彼とその祝福の証の虹を見ることができたのだから……。

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