しばらく前から僕たちは目前の光景をぼ~っと眺めていた。

「ねぇ、ムラタァ、俺たちもあんな格好でずっとじっとしてなきゃいけないの?」
 すこし不満げに後ろから抱きついているヨザックに、
(へぇ~、こういう風にするのって生来の癖だったんだぁ~)なんて思いながら、
「今回のメインは僕たちじゃないから、パスしちゃってもいいんじゃないかな?」
 なんて答えた。
 そう、今回のメインは第27代魔王渋谷有利陛下とウェラー卿
(但し、子供に戻った、だ)。

 どこから聞きつけたのか、眞魔国日報の特別取材申し込みを本当なら却下するはずだった王佐殿は、 「ワタクシは残しておきたぁ~い!!」との一言に抵抗できず。
 かくして渋谷は正装にマントという格好で、ご大層な椅子にガチガチな状態で腰掛けていた。
 隣にはウェラー卿、かつての第二王太子の正装でいかにも慣れた雰囲気で立っている。
 見慣れた一見さわやかな(実は…と言うのは止めておこう)笑顔はちょっとだけ子供っぽさを残して。

「いゃぁん、陛下もコンラートもかわいい!!、グウェンやヴォルフも小さくならないかしらぁ?」
(ツェリ様、それはそれでマズいと思いますよ?、フォンビーレフェルト卿はともかく
 フォンヴォルテール卿まで小さくなったら国政はどうするんです?)
 という柄にもないツッコミを軽く入れ、
「まったく、まだなのですか? それで眞魔国日報念写部のベスト4ですって!?
 これだらから男というものは○×△□●▽×……」
(あ~アニシナさん、そんなにまくしたてられたら、いくらベスト4でも力なんて出ませんよ。
 やっぱり僕がピンホールカメラの原理を教えた方が早かったかな?
 いや、そうするとモノクロしか撮れないから、カラーで写すには…現像液の成分、なんだっけ?…)
 なんて思ってた。
 渋谷がマシンガントークなら彼女はスティンガーかパトリオットミサイル。
 どちらにしても破壊力は数段上。

 元々、取材対象は魔王陛下とウェラー卿だったから、僕たちがここにこうしている必要はない。
「なぁ、村田。村田だって残しておきたいだろう、子供時代のヨザック。
 なっ、残しておきたいよなぁ~、お願いだ、残しておきたいと言ってくれ!!」って泣きつかれたから、
 ここにいる訳で。
(ごめんね、渋谷。僕は自分の携帯でもうちゃんと撮ってあるんだ、何枚も。
 あっ、君たちも撮っておこうか?)

「さて、退屈してきたし、逃げ出そうか?」
「えっ、いいの?」
「いいの、いいの。ほらっ、行くよ。」
 ヨザックの手を取って、こっそりドアから抜け出る。

 ぶらぶらと特に当てもなく回廊を進んでいると、
「ムラタ、どこに行くの?」
「行きたいとこ、ある?」
「う~んと….厩舎!!」
「えっ?」
「世話係のおじさんが、馬の乗り方、教えてくれるって言ったんだ。」
 途端に嬉しそうな顔で小走りに駆け出した。

 来た当初、ピリピリ、オドオドして僕の側を離れなかった彼は、その内一人歩きを始め、
 いつの間にか城内を自分のテリトリーにしていた。

「ムラタ、ちゃんと前見てる?」
「えっ?」
「ほらっ、ここから階段。踏み外さないようにね。」
「はぁ~い」(クスクス、まったく変わらない…)

「そうだ、こうも言ってた。
 『陛下はお一人でお乗りになられるようになったから、猊下も訓練なさる気がおありならお教えするのだが…』って」
「…はぁ…」
(僕が一人で馬に乗る必要なんてほとんどないと思うんだけど。
 それに僕は君とタンデムする方が…、大きな背中にしがみついて疾走するのも、
 逞しい腕に守られて静かに馬を進めるのも…好きだよ。)

 ヨザックに手を引かれて階段を下り、
 重厚なドアを二人で開き、
 とても優しくて、眩しい陽光の下に出た。

気に入ったら↓のハートをクリックしてね
1つ星 2
読み込み中...