一体何でこんな事に!
 その場にいた人間―――正確には魔族か―――は皆そう思った。
 そんな周囲の視線を受け止めるのは二人の幼い子供。
 一人はきょろきょろと落ち着かなく周囲を見回す。
 一人はことん、と首を傾けて大人しく座り込んでいる。
  二人に共通しているのは髪も瞳も黒いと言う事。
 この国で―――否この世界では稀有な色。
 その色を持つ人物は今の所二人しかいない。
 王である少年と、その補佐役である少年。
 少年、と言っても此処まで小さくはない。
 ではこの子供は一体何者なのだろうか。
 考えたくはないが…可能性としては考えなくてはならない。
 皆が、如何声を掛けるか悩んでいた。

『しょーちゃん、どこ?』
 きょろきょろと落ち着きなかった子供が口を開く。
 それを聞いて行動を起こしたのはウェラー卿コンラートだった。
 しゃがみ込み、視線を合わせて声を掛ける。
「陛下…ですか?」
 幼子は声に反応したが瞳を瞬くだけで何も言わない。
「なんで、コンラットがいるの?」
 首を傾げていた方の子供が口を開いた。
 どうやら、先程のは何か考えていての沈黙だった様だ。
 舌が回らないのかコンラートの名前を正確には発音出来ていない。
「…猊下…?」
「ん? そうよばれることになるの? もしかしてここ【しんまこく】?」
 きょん、と瞳を丸くして再び首を傾ける子供。
「はい、此処は眞魔国です。…では貴方はムラタケン猊下ですね?」
 ゆっくり、コンラートが確認をする。
 皆が子供の返答を見守る中―――
 こくり。
 子供は小さく頷いた。
「げ…猊下ーっ! 何でこんな小さくなっちゃったんですかー!」
 一番に行動したのはグリエ・ヨザック。
 村田はそんな大人を見てまた首を傾ける。
「だぁれ? ちいさくって…しょうがないでしょ? まだこれからしょうがっこうにいくんだから」
 面と向かって【小さい】等と言われて子供心に傷ついたのだろうか。
 村田はむっと眉を寄せながらヨザックに対して口を開いた。
「中身まで退化してるのか…。ならやはりこの子供は陛下と言う事に…」
「ちょっ…隊長! 何冷静な発言してるんですか!」
 ヨザックが慌てるのも無理もない。
 原因は解らないが国のトップ二人が子供となったのだ。
 否、元々子供だったがこれでは幼児だ。

『ふっ…』
 ヨザックの大声に驚いたのだろう。
 ユーリらしき子供はびくりと肩を揺らして固まった。
「ああ、大丈夫ですよ、ユーリ」
『ふぇっ…しょーちゃぁん、ままぁ…ぱぱぁ…どこぉ?』
「まさか…言葉が通じていないのか…?」
 やっと我に返ったらしいフォンヴォルテール卿グウェンダルが呟く。
「コンラット【へいか】のなまえは?」
「ユーリ、です」
「猊下は何故コンラートの名を?」
 しかも普段は【ウェラー卿】と呼んでいるところだ。
「生まれる前にお会いしているからだろう。猊下の保護者が呼んでいたから」
 大人がそんな話をしている間に村田は今にも泣き出しそうなユーリに近寄る。
 前に回り込んでぽんぽん、と頭を軽く撫でる。
『ユーリ、ないちゃダメだよ。あのね【しょーちゃん】とママとパパはだいじなごようじででかけたの。ちょっとたいへんだからユーリをつれていけないからって、ぼくといっしょにまってよう?』
「ああ! 流石猊下! お小さくても聡明でいらっしゃる! 陛下のお言葉を理解なさっていらっしゃるのですね!?」
と言うより同じ世界の言葉なのだが。
『おでかけ?』
『そう。ユーリがねてるのおこすのかわいそうだし、すぐにかえってくるからって、ね? おにいちゃんたちがあそんでくれるっていうし』
『うん』
 にこ、と笑った村田を見てユーリが頷いた。
 それを見て言葉は通じないものの何とか場が納まった事を周囲は理解した。
『ぼくは、むらたけん』
『けんちゃん?…しぶやゆーり』
『よろしくね?…えと…この人はコンラット…で…あとはー…』
 村田が視線を巡らせる。
『コンラット!』
「はい?」
 にぱと明るい笑顔でユーリに呼ばれたコンラートが反応で返事をする。
「ね、コンラット。あとのひとのなまえは?」
「あ、はい―――」
 何が何でこんな事に!
 その問いに答える者は今の所、いない。

「取り敢えず…誰がお世話をする?」
 原因は不明。
 しかしこの子供は魔王と賢者本人らしい。
 その話は纏まった。
 今度はその二人を一体如何するのかが問題になる。
「勿論王佐である私が!」
「ユーリは婚約者であるボクが世話をする!」
 勢い良く立候補をしたのはギュンターとヴォルフラム。
 予想どおりと言えば予想どおり。
「ギュンターは陛下がこうなってしまった以上仕事があるだろう? グウェンも同じだな」
「しかし!」
「ギュンター、その方が陛下や猊下の為にもなるのではないか?」
 更に言葉を募ろうとするギュンターの言葉を遮ってグウェンダルが言う。
 放っておけば話が進まないのを知っているからだ。
 面倒事に巻き込まれたくない、と言う意識も強いのだろうが。
「ヴォルフラムでは子供の世話は出来ないだろうな」
「兄上、そんな事はありません!」
「でもヴォルフは子供に接した事は殆どないだろう? グレタくらいかな?」
 兄二人から言われてしまったヴォルフラムは黙る。
 確かに、三兄弟の末っ子で身の回りに子供と言う子供はいない。
 普段のユーリや村田とも年齢差はあるが中身は大して変わらない。

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